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技術と数値データ,キーノート「常磐線と福島第一原発」(チャレンジャーコラム第2回)

 みなさん,おはようございます.これから,Wein.Team 九州沖縄team,チャレンジャーコラムを連載しますYoshidaです.(自己紹介はnoteのプロフィールにピン止めしてます)

今私が挑戦していることは,「技術と社会の在り方を再構築するアイデアをまとめ,青写真を小論文に描くこと」です.その挑戦で考えていること,複数のトピックに分けてを語りたいと思います.


予定
第1回:技術と倫理,キーノート「タイタニック」
第2回:技術と数値データ,キーノート「常磐線と福島第一原発」
第3回:技術と想像,キーノート「東京証券取引所ダウン」
第4回:技術と社会(GDPRと金盾)
第5回:技術と古典
最終回:技術を考える今日と小論文

今回は,技術を伝える報道,について特にそのファクト(事実)として使える数値(データ)について語りたいと思います.そしてキーノートに,常磐線と福島第一原発について,語りたいと思います.

データの種類と考え方

 よく,ファクトベースなどというフレーズには,データ,とりわけ数字を引用したものだといわれます.それは適切に数値を引用することで,現象を普遍的なものにし,個人の意見ではなく,一般論にすることができます.
 しかしながら,この数値の適切な使い方は難しいものです.このデータの見せ方一つで人が躍らせることはよくあります.

 よく塾や家庭教師の広告で,折れ線グラフの差を強調し,内申点が25点から28点になったことを,強調することは当たり前にあります.もちろん,内申点を3点あげるための努力は素晴らしいと思います.しかしながら,その塾や生徒さんの努力を体現するのに,この折れ線グラフでの表示は,また疑問があります.


 そこで今回は,データ(数値)の種類について語ってみましょう.種類は検出する方法や評価する方法によって,大きく6種類があります.

・絶対値
・相対値(差,割合)
・対数値
・微分値(1階,2階,...)
・積分値,総和値(1階,2階,...)
・その他(畳み込みなど)

 絶対値については,大きな異論はないと思います.リンゴは一個ならだれが見ても一個です.しかしながら,絶対値で評価するデータはそうは多くありません.基本的に我々は比較で物事を考えています.
 リンゴは多いか少ないか,人数分足りるか足りないかは,全て相対や比較です.

 次に相対値とは,基準や目標に対する現在の比較や差,割合です.しかしながら,ここで重要なことは基準を明確にすることです.例えば,「致死率が2倍のウイルスです」と言われても,基準が0.005%と1%では大きく違います.つまり,2万人に1人と2人の違いと,100人に1人と2人との違いは一目瞭然です.それこそ,先ほどの塾の事例もそうです.
 とりわけ注意したのが,温度がそうです.気温はおおよそ,-20℃から40℃程度をとります.ですが,夏を冬で気温が二倍になったなんてことは言いません.そもそも,この温度の単位である℃(セルシウス温度)は,水の凍る温度(説明不足)を0℃とし,沸騰する温度(説明不足)を100℃としています.ですから,2倍や3倍なんて考えることはできません.

 しかしながら,相対値の数値データであっても,基準が明確に示されない,暗黙の了解で語られるのが現状です

 次に,対数値についてです.
 対数とは一般にlogとして与えられる関数です.簡単に言えば,10ならば1,100ならば2,10000ならば4というふうに,大きな数字を簡単に表す方法です.つまり,数字が1変わるだけで,実際には100倍になるようなものです.
 この対数値をとる代表的なデータは音量(デシベル)と,地震(マグニチュード)です.ただ,対数の場合,データを過大に評価する方向ではなく,データを過小に評価するように,騙しますから,少々特殊です.
 それこそ,空港の騒音問題において,単位がデシベルであるため,航空会社や飛行機製造メーカーが努力して音量の絶対量を大きく下げたとしても,地域に報告される音量データの変化が,わずかであるため,その努力が伝わりにくいということがありました.

 微分値とは,瞬間的な変化の強さです.速度や加速度(G)がそれにあたります.つまり,データが大きすぎると,気が付けば止められないようなことになるのです.(スピードの出しすぎが危険なことと一緒ですね)

 積分値とは,変化していくデータを全て足し合わせたものです.例えば,時々刻々と変化する速度を全て足すと,走行距離になりますし,2本の辺の距離(語弊あり)を全て足し合わせると,面積になります.
 ここで重要なことは,データを全て足すため,予想よりも結果は低くなることです.例えば,東海道の最高速度は時速285kmですから,東京大阪間約500kmは二時間未満で走行できることになります.しかしながら,実際は最速の”のぞみ”でさえ二時間20分程度かかります.それは,途中駅の停車や,それに伴う減速などが影響しているからです.つまり,瞬間的なデータを時間で単純に掛けるように求めることはできない,ことになります.

 データの種類は他にも数多くあります.専門的ですが,偏角をとるもの,畳み込みをするものなどなど,様々ですし,あるいは時間のように10進法でないものもあります.

  何より,数値データそのものよりも,それに至る過程や,その数値データから言えることが重要です.
 例えば,風車の効率は60%程度が理論的な限度であり,水車の効率の限度は100%です(語弊あり).つまり,風車と水車の効率の比較はできません.あるいは,風車の効率が仮に40%だったとして,そこから何が言えるかです.「だから,水車の建設と研究をすべきか」なのか,「でも風車は水車に比べ簡単に建設できるから,効率そっちのけでどんどん作ろう」なのか,だちらも言えます.
 この結論をなあなあにする人は多いと思います.これが僕の憂いです.

 
 この問題は難しい問題です.何よりここまでの議論は,高い知識と考察を要求します.ですから,語れる人は限られます.ですから,語る人間一つで,大勢の考え方が変わってしまうのです.

 しかし,伝えるメディアに責任を投げているからこそ,こうした不具合が生じるのであって,とも考えられ,非常に考えさせられます.

キーノート「福島第一原発事故」

 福島第一原発の事故に対しての是々非々ではなく,あるメディアが伝えら,事故に関する数値データの取り扱いについて語りたいと思います.


 まず,2020年3月,東京上野から宮城仙台を,福島県浜通り地域を経由して結ぶ常磐線が全線で復旧し,上野発の特急が一日に3本,杜の都仙台へ往復します.
 ところが,その途中には,帰宅困難区域や原子力発電所の近くを通ります.勿論,JR敷地内は除染されています.しかし,それでも,「車内で線量計の警報がなった」という記事が出ました.その記事の数値データに基づいた記述の要旨をまとめます.

・常磐線特急の車内で線量計のアラートが鳴った.
・自治体公開の沿線線量計のデータより,かなり高い線量を観測している.

 さて,このアラートについて語りたいと思います。

 議論をシンプルにするために,放射線量の基準に対する是非や,線量計の計測の是非については考えず,全て正しいものとして取り扱います.

 このアラートは、線量が国の基準を上回った時になるものです.つまり,線量が国の基準を超えていたことになります.しかしながら,常磐線特急は再開されました.このロジックを考えていきましょう.

 ここまでの論理の穴は,線量の国の基準です.国の基準とは,一年間に浴びる放射線量の総量に対して適応されます.つまり,ここでのアラートは,その総量を一年365日で割ったものです.そうです,このアラートが鳴った地域に一年間居続けて初めて,危険な被ばくをしたことになります.その考えに則って帰宅困難区域が設定されます.

 翻って,今回の常磐線特急のことを考えましょう.常磐線特急は,途中停車駅があるとは言え,基本的に時速90km以上で駆け抜けます.例え帰宅困難区域を通過しても,一年に比べれば,その通過する時間は一瞬で問題ないということです.つまり,比較するデータの取り扱いが異なる訳です.実際,鉄道の区間で平均した線量は十分に許容可能なものでした.

 記事において数値データは,基準に対する数値データとして取り扱われています.しかし,重要なのは基準の背景に照らしたデータです.そこが欠落していました.

(写真,常磐線復旧を伝えるニュース(日テレ系ニュース24より)

 しかしながら,思うことは,このような数値データの取り扱いは非常に難しいものだということです.

 こうして考えると,ファクトベースの議論の限界が見えてしまいます.事実に基づく議論の事実とは,複雑なコンテクストであって,その評価はたかが数字一つとっても難しいのです.


拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました。



写真はトップから,東洋経済,受験のミカタ,関西学院大学,Wikipediaから頂戴しました.

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