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ピアノでのフレージング練習方法(覚書)

左手のピアニストの胸を借りて。

左手の効用。
もはやそのように言ってもいいかもしれない。
右手では長年どうしても表現できなかったフレーズが、左手で弾くと途端に〈歌〉になって、どんなに小さなフレーズからもあっさりと〈歌〉が出てくるのは、驚きですらある。
右手では堅い音になりがちなffや高音部ですら、左手で弾くと、瞬間的に明朗なサウンドになる。
FAZIOLIか?と思うくらいYAMAHAが響きまくる。


某日、左手のピアニスト智内威雄さんが「左手だけで弾いたとき、それまで全然自分の音を聞いていなかったことに気づいたんです。実はピアノはすごく歌ってくれていたんだってことに気づいたのは発見でした」と仰っていた意味がようやくわかった。


以下、意味不明な覚書、あるいは一人Wikipediaになるかもしれないけど、なぜあっさりとフレージングが整うのかの考察と、練習方法等をメモっておく。


・なぜ左手だとあっさり〈歌〉が出てくるかの考察:
両手のピアニストは両方の外声(Sop./Bs.)をどちらも小指薬指あたりで弾くことになる。要は、弱い指で強い音を弾く宿命にある。ポリフォニックな音楽であれば内声の出番も割と平等にあるが、とりわけロマン派になると小指薬指を酷使。
それが、左手だけの演奏になると、Sop.を親指で奏でることになる。重さでフレーズが繋がる。従って、「強すぎて音が割れないように」という配慮の緊張なしに強音高音部を楽々と、非常にクリアで太い響きでつなげていけるので、望んだ音がそのまま出てくる。
また、視野的には、右上の空間に向かってフレーズを紡ぎ出すことになり、右肩上がり・未来志向の開いた音が自然に出てくる。


・練習の仕方:
(1)まずは、右手のパートを左手で弾いてみる。
それまでコルトーの練習曲などで指先の整音をしておいたら、左手で弾けばすぐにフレーズのもつ〈歌〉が出てくる。
もし左手で〈歌〉がありありと感じられないようであれば、まずはコルトーの練習曲から。楽譜の一部を下記に画像で紹介。

画像1


(2)左手を音色の手本として、右手でそれを再現する。
最初は右手のフレーズの貧しさに驚くかもしれない。左手親指による音色を右手で再現できないもどかしさと闘いながらも、音色を近づけていく。


(3)これら(1)(2)を繰り返す。
そのうちに、右手のフレージングに必要な小指薬指あたりの圧力感覚を色々試せるようになってくる。
右手で堅い音になっていた原因がわかれば、あとは早い。
指の角度は、親指に倣って、水平に近づける意識で。
親指は根元に大きな筋肉を持つ、太い指だ。それに較べて他の指は細い。
細く堅い垂直な打鍵だと明朗な音はなかなか出ない。


(4)(3)までできてきたら、今まで無味乾燥にしか思えなかったフレーズやフーガでも試してみる。
両手で弾いていたフーガを、右手パート/左手パートに分けて、左手だけでどちらも弾いてみる。左手だけで各パートを弾くときには、あとで多重録音を合成してみる想像をしながらフレーズを作っていくと、どんな小さなパーツにも〈歌〉が隠れていることが、文字通り手に取るようにわかってくる。


(5)(4)のあと、両手で弾く。
すると、各声部の躍動感と整然とした縦横の組み合せの妙がものすごくクリアに感じられるようになる。長年悩みながら取り組んできた曲であれば、一挙に視野が開ける感覚が出てくるかもしれない。


(6)新しい感覚を細かく扱えるようになってきたら、微調整。
たとえば旋律部の音量はそのままにして低音部の強弱で全体のアーティキュレーションを調整する、など全体の立体感を仕上げていく。


今のところ以上だが、今後も引き続きしばらくいろいろ試してみることにする。
それにしても、今まで演奏上親指がネックになる(わざわざコルトーも親指のための章を設けている)のに、ネックどころか有望な歌い手として親指が急浮上なのが驚きである。

独奏や伴奏、生徒さんへのレッスンに活用できるようにしていきたい(試行錯誤しているうちに、右手の小指薬指の筋力もついてくるだろう)

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