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全国ぷれジョブ連絡協議会 代表世話人 西幸代さん

障害のある子もそうでない子も一緒に生きていくことができる地域社会を創る活動「ぷれジョブ」は、多くの方の賛同を得て、全国へと広がっています。ぷれジョブの創始者である西さんにお話を伺ってきました。

西幸代さんプロフィール
出身地:岡山県
所属・職位:全国ぷれジョブ連絡協議会 代表世話人、ワーキングメモリ学習塾ぽえちか 代表
専門分野:ソーシャルインクルージョン、ワーキングメモリ特性に配慮した学習指導と企業サポート
経歴:全国ぷれジョブ連絡協議会代表世話人、ぷれジョブ活動で2009年地域づくり総務大臣表彰受賞、日本ワーキングメモリー学会会員、岡山大学教育学研究科(教育学修士)、カンザス大学Juniper Garden留学(PBS積極的行動支援法指導法の研究)、岡山県義務教育・特別支援学校教諭(1984.4~2016.3)。現在、障害のある人とない人が共に暮らせる地域社会づくり「ぷれジョブ」普及と発達障害や軽度知的障害のある子どもの学習支援・認知特性に配慮した企業風土づくりをサポートしています。
座右の銘:手考足思

「障害のある子に就労体験を」

記者 最初にぷれジョブの活動内容を教えてください。

西幸代さん(以下、西 敬称略) ぷれジョブは、障害のある子もそうでない子も一緒に生きていくことができる地域社会を共に創る活動です。
具体的には、障害のある子が週に一度1時間、地域の企業で就労体験をする、というものです。それには、地域の人にボランティアでジョブサポーターになってもらうことと、地域の企業に就労体験をさせてもらうことが必要です。
おかげさまで多くの方に賛同していただけて、岡山県倉敷市で始まったぷれジョブは全国に広がっています。ぷれジョブは事業とかじゃなくって文化だよね、だから継承しないといけないね、って言っていただくようになり、来年からは法人にして、この文化を継承していこうと考えています。

「存在そのものに価値がある」

記者 ぷれジョブの「ぷれ」の意味を教えてください。

西 「ぷれ」には二つの意味を込めていて、一つは「pre」です。小学校5年生から始めているので、preですよね。もう一つは「pure」のローマ字読みで「ピュアなjob」です。
働くって言葉には、お金を稼ぐjobもあるけど、人に物を考えさせたり命のことを考えさせたりってのもありますよね。特に障害の重いお子さんは、内的生産性が高いですよ。まさにピュアなjobですよね。
人間には、出来るDoingの価値と、存在のBeingの価値があります。周りの大人がそのあたりを分からずにDoingばかり求めちゃうと、大人になっても一人で歩き出せない、存在を認めてもらっていないから。「できるできる」を重ねることは必要だけど、それ以上に、出来ない時にこそ大事にされたっていう経験が大切ですよね。
実際、健常者と障害者で分断されているけれど、障害者の中もまた分断が起こっていて。自分よりも障害の重い子と比べて、自分の方がいい、みたいな。それは寂しいですよね。ですからぷれジョブの1時間は、そういう分断をすべて取っ払った1時間にしたいと思っています。

「障害のある子ども達はすごい気づきを与える存在」

記者 存在を認められたら子どもは嬉しいですよね。ところで、西さんは何がきっかけでぷれジョブの活動を始められたのでしょうか。

西 私、中学校の理科の先生だったんですよ。ある時、知的障害の子をクラスに受け入れたんですね。すると最初はクラスでイジメが起きたりするんですけど、年度の終わりにはなんかほんわかするんですよ。
なんでだろうと思って、希望を出して支援学校に行ったんです。そこでは、ベッドの上で寝たままの最重度の小学校4年生の女の子の担当になりまして。最初はおはようって言っても反応がないんですけど、一週間ぐらい経つと私が来るのを楽しみに待っていてくれるんですよ。
喉には管が通っているから言葉は出ないし、表情も変えられないし体も動かないから一般的にはコミュニケーションができない子って言われる子ですよね。それでも自分の息で挨拶をしてくれたんです。
1年半ぐらいで亡くなったんですけど、まさにピュアjobですよね。彼女はお金を生まなかったけど、人に考えさせる仕事をしてくれました
彼女のおはようって想いを全身で浴びると私は幸せになりました。その時に思ったんです、障害のある子ども達はすごい気づきを与える存在なんだから、もっと街に出ていくべきだろうって。
その彼女との出会いがきっかけですね。その時から、障害者がもっと街に出ていける仕組みを考えていたんだと思います。

「ぷれジョブは素敵な未来に繋がっている」

記者 その子は偉大な仕事をしてくれましたね。全国に広がっているぷれジョブですが、これからの未来ビジョンをお聞かせください。

西 まだ知らない人には知ってもらって、面白いなと思ったら始めてもらいたいですね。そんなに広めようとしなくても、良いものだったら広がっていくと思いますし。大切なのは理念ですね。Doingだけ求めたら続かないと思います。
今の時代、無痛文明って早稲田大学の森岡正博さんは表現しましたけど、私たちの社会は、徹底的に痛みを排除してきてますよね。けれど、やっぱり痛みを引き受けないと人間は熟さないのかなって思うんです。ぷれジョブはかかわるだれもがちいさな痛みを抱えるんですよ。でも、そうした後に、思ってもみなかったような本能的なよろこび、存在のよろこびが、ごほうびのようにもらえるんです。
お母さんは我が子を1時間出さないといけないから痛みを伴いますし、サポーターさんも自分の時間を1時間差し出すから痛みを伴います。企業さんも儲けることをやりたいのに1時間を差し出すから痛みを伴います。
けれど、こうやって1時間を差し出すことで地域のため、次世代のため、まだ見ぬ何かのためにGiveしているんです。次の文明を創る作業なので、全ての人は理解できないかもしれませんが、みんなが1時間を提供することがそんな素敵な未来に繋がっているんですよ。これを共有できる人が増えたら嬉しいですね。

「不確実なものをそのまま持っていられる人

記者 素敵な未来に繋がっていく道が見えました。最後の質問ですが、その未来をリードしていく人はどんな人だと思われますか?

西 先の見えない時代ですから、分からないものを分からないまま持っておく力が必要ですね。不確実性への耐性って言うんですけど、不確実なものに対して耐える力。現代は、この分からないまま抱えておく力が極端に低くなっています。
できるだけ目に見えるようにするとか、全部が分かり易い社会ですから。障害のある子の存在をはじめからデザインに含む社会を作ろうと思ったら、分かるように伝えるのも勿論なんですけど、分からないまま持っていても大丈夫な人を増やすのも大事ですよね。
昔は分からない人がいてもそのままでしたけど、最近はそれが許せなくなっていますよね。世の中全部が分かることばかりになった時に、分からないことが排除されてしまいます。分からないものを排除するってなったら、障害は排除されちゃいますよね。障害の中の特性だって、まだごく一部しか分かっていないわけですし、ほとんど分からないもので世界は成り立っているのに。
分かるものだけでつくった社会なんて脆いですよ。そういう不確実なものをそのまま持っていられる人が、これからはリーダーになっていくんじゃないでしょうか。

記者 西さん、今日は素晴らしいお話をありがとうございました!

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西さんに関する情報はこちら

●ぷれジョブサイト http://www.prejob.jp/

●Facebookページ  https://www.facebook.com/sn.purejob


【編集後記】
インタビューの記者を担当した塚田です。

西さんは普段から時代や組織や人に対して、深く洞察されていることがインタビューを通して伝わってきました。多くの方に応援されながら、素敵な未来に向かって歩まれている西さんの益々のご活躍をお祈りしております。


この記事は、リライズ・ニュースマガジン “美しい時代を創る人達” にも掲載されています。


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