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パーソナルトレーニングによる筋トレの健康被害の件について理学療法の僕が思うこと。

皆さん、こんにちは!
理学療法士の澤渡です。

本題に入る前に、まず簡単な自己紹介をさせてください。

私は10年以上フィットネス業界に在籍しており、前職ではトレーナーとしてパーソナルトレーンングを主体としたコンディショニングジムで活動しながら理学療法士の資格取得のため学校に通っていました。

理学療法士の免許を取得後は、現在は整形外科クリニックで勤務し「姿勢と動作」に着目し、一般の方を中心に治療から予防まで一貫したサービスを提供することを自身の理念に掲げ、活動しています。

ニュースで取り上げられた筋トレによる健康被害に関する記事について

さて、本題に移ります。
昨日、ネットニュースでこちらの記事を目にしました。

ダイエットや筋力アップなどを目的に、トレーナーから個別指導を受ける「パーソナルトレーニング」で重傷などを負う事故が相次いでいる。近年の筋トレブームを背景に被害は増加傾向で、消費者庁の消費者安全調査委員会(消費者事故調)が実態調査に乗り出した。専門知識を欠いたトレーナーもいるとして、注意を呼びかける声もある。

最終更新:2023/7/2(日) 13:36
読売新聞オンライン

今回だけに限らずここ数年、過去にもこのうような記事が掲載され消費者庁が注意喚起する事例がありました。

私が所属している整形外科クリニックでもここ数年増えているのが今回取り上げられたニュースの内容のように「運動をはじめてカラダを痛めてしまった」と医療機関を受診するケースです。

ニュースで報告されるような重篤なケースは稀であっても、良かれと思って運動を始めたのにも関わらず運動によって体のどこかを痛めてしまうというケースは意外と多いのでは?と感じています。

運動は本当に良薬なのか?

ヨガや筋トレ、フィットネスジムでの運動など…運動手段は人それぞれ異なりますが、大抵の場合「運動すれば健康になれるし、病気を予防できる」と考えると思います。そのため、運動は唯一副作用のない薬と比喩されています。

しかし、本当に運動そのものが全ての人に万能な良薬かどうかは解釈に注意が必要だと考えています。

運動は健康になることと同等に怪我のリスク要因でもあるということ

運動を行うということは同時に怪我をするリスクについて常に考える必要があります。

特に運動指導者の立場であれば目の前のクライアントを健康に導くと同様に運動を行うことによる怪我のリスクについてしっかりと学ぶ必要があります。

運動による怪我の発生率を報告した研究をいくつか調べてみると、運動による怪我の発症率は低いものの、運動習慣のない方が急な運動を行ったり、女性や高齢者の場合などで怪我のリスクが高まりやすいといった報告されています。

文献1:YogaYoga-Related Injuries in the United States From 2001 to 2014

米国における2001年から2014年までのヨガ関連傷害

文献2:Cross fitA 4-Year Analysis of the Incidence of Injuries Among CrossFit-Trained Participants

クロスフィットトレーニング参加者における怪我の発生率に関する4年間の分析

文献3:FitnessPrevalence of injuries among young adults in sport centers: relation to the type and pattern of activity

スポーツセンターにおける若年成人のケガの有病率:活動の種類とパターンとの関係

このように指導するということは適切に行えば、怪我を発症するリスクはを予防できるものの、対象者の年齢や性別、運動経験や体力レベルなどを考慮して安全にトレーニングを指導することが必要です。

パーソナルトレーニングなのになぜ怪我をしてしまうのか?

今回のニュースではパーソナルトレーニングに関する健康被害の内容についての記事ですが、そもそもパーソナルトレーニングを受ける利点は何かについて考えていきたいと思います。

私の経験上、クライアントに「なぜ、パーソナルトレーニングを受けようと思ったのですか?」と質問するとこのような答えが返ってきます。

●  自分に合った運動方法を知りたいから
●  自己流だと運動が継続できないし効果を実感しづらいから
●  自分の意思が弱く予約による強制力があるから
●  安全に運動を行いたいから
●  専門家に見てもらうことで運動の効果をより最短で感じたいから

著者が実際にクライアントに対して「パーソナル・トレーニングを
受ける理由」について質問したときの上位の回答結果

注目すべき点は、このような回答の中に「体を追い込みたいから」は存在しない点という点です。むしろ最初から体を追い込んで欲しいという目的の方に今まで出会ったことがありません。

パーソナルトレーニングはサービス提供の経験上、非常に価値があるサービスだと考えていますが、人が提供するサービスであることなどから提供するサービスも決して安いものではありません。

地域やサービス内容、トレーナーのレベルや経験などによって料金は異なりますが、概ね相場は1時間あたり6,000円〜10,000円のあたりだと思います。

ここで間違った認識として挙げられるのがサービス提供者がトレーニング内容に満足してもらいたい=追い込んで満足度をあげよう!と思い込んでしまうことです。

相手の目的や期待を無視してとにかく満足してもらいたいという理由からトレーニングで追い込むことを優先した指導を行った結果、このような事故を招くのではないかと私は考えています。

筋トレは運動の最上位?

そこで考えなければいけないことが、「何のために運動を行うのか?」について理解することです。

運動をはじめる目的は様々ですが、一般的にジムに通うこと=筋トレをして体を引き締めるという認識が強いのではないかと私は思っています。

しかし、筋トレをして体を引き締めるという目的は目的と運動を実施する段階でいうと最上位にあると考えています。(下図)

運動する目的と運動を実施する段階について

ここでフィットネスやメディカル施設で運動指導を経験してきた僕が思うことは運動指導に対するイメージが「筋トレ」に偏りすぎているような印象があるのではないか?という点です。

決して、筋トレを行うことも筋トレを提供することを否定するつもりはありませんが、運動指導が筋トレに偏ってしまうのはおそらく「運動の成果が一番シンプルに分かりやすいこと」ということだと思っています。

もう少し分かりやすく説明すると、筋トレがシンプルで分かりやすいということは、単純に体重が減ったということことや筋肉が付いて見た目が変わったという事実は数値や目に見える形で反映されやすいからだと思っています。

しかし、運動を行うことは決して筋トレのように目に見える形だけが効果があるという訳ではありません。

運動は筋トレだけに限らない。

例えば、ストレッチをして気持ちがすっきりすることや、仕事の生産性やモチベーションが上がることも運動による効果だと思います。

また、食事が美味しく感じることや健康診断の結果が良くなることもすべて運動の成果です。

このように、見た目や数値の結果に関わらず運動を行うことで得られる利点は沢山あります。

運動指導者はクライアントの目的や現状をしっかり把握した上で、今のレベルに合った運動方法や目標設定を行い、目に見える運動の効果以外の効果効果も伝えることが重要であると私は思っています。

運動方法を指導するために必要なことは自分に合った運動方法を姿勢と動作からつなげること。

運動指導者としてこれから必要なスキルは、各段階に合わせた運動指導スキルを持つことだと考えています。

運動の最上位に位置する筋トレはそもそも健康な人が行う人が多いですが、それ以外の目的ではその人に合った運動方法を無理なく適切に処方していく運動指導スキルが求められます。

段階を引き上げるために指導時に必要なスキルは「姿勢と動作」をつなげること


そのための必要なスキルの共通点は「姿勢と動作」であると私は考えています。

姿勢と動作は目的が異なったとしても共通して理解しなければならないスキル。


「姿勢と動作」を評価することは各目的の段階に対する共通スキルだと考えています。

例えば運動不足を解消したいという目的であっても、身体の不調を改善したいという場合であったとしても運動指導者として共通して理解して置かなければ行けない部分(スキル)です。

目的が異なっても姿勢と動作は運動指導における共通スキル

風邪を引けば、病院に行って医師に診てもらい適切な薬を処方してもらうように、運動指導もトレーナーなどの専門家から適切な処方箋(運動という薬)を提供してもらうべきです。

そのために、姿勢や動作からつなげるということはその役割を担う重要なスキルだと個人的に考えています。

姿勢や動作の不具合によって痛みや不調を招く3つの要素

姿勢と動作をつなげることの最大の利点は痛みの組織ではなく痛みや不調を引き起こす原因を特定し対処できるということです。

つまり、体の不調は日常生活における持続した不良姿勢や不良動作の繰り返しが組織に微細な損傷を引き起こし、痛みや症状となって現れます。

姿勢や動作の不具合によって痛みや不調を招く3要素


実際、整形外科領域で取り扱う慢性的な症状では痛みを感じる組織が沢山あり、痛みの発生源を特定することは外傷などで受傷した部位がはっきりとわかっていること以外不可能だと思っています。

しかし、姿勢や動作など痛みや症状を引き起こす原因にフォーカスすることが出来れば運動指導時に注意しなければいけないポイントを理解することができ、怪我を予防する上でも適切な運動処方を行う上でも非常に大切だと考えています。

姿勢や動作の評価は「病態」を特定することはできませんが、姿勢や動きの評価をつなげることで病態を引き起こす原因(動きの癖や力学的負荷)を特定することができます。

だからこそ運動指導者こそ姿勢と動作評価し、目的をつなげられるスキルを持つことが大切だと思います。

最後に伝えたいこと

運動は「唯一副作用のない薬:Exercise is Medicine」と比喩されているという話を冒頭でお話しましたが、その人の体の状態を知らずにやみくもに運動指導を行うことはケガのリスクや運動の習慣化に影響を及ぼします。

そのため、運動プログラムを処方する前に姿勢と動作の評価を行い、目的と問題点をつなげていくことで対象者(クライアント)に合った運動処方プログラムを提案することができると考えています。

姿勢と動作の評価は最適な運動プログラムを提案するための出発点です。

目的地に行きたいのに、現在地を知らなければいつまで経っても目的地にたどり着くことはできません。

だからこそメディカル領域だけではなく、フィットネス領域も姿勢と動作の評価からつなげていくことが必要だと考えています。

姿勢と動作の評価からつなげたエクササイズ処方ができることは対象者の運動能力を把握しより安全に効果的な運動プログラムを処方できると私は考えています。

パーソナル・トレーニングによる健康被害を抑えられるように、このような価値観のもと情報発信ができればと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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