渚にて(2017年ごろ)

深夜、私はひとりで海辺にいた。
手元にはウォッカの小瓶がひとつとオレンジジュース。私はスクリュードライバーを飲みながら海を見ていた。

なぜそんな気障なことをしたのか。自分の生活から逃げ出したかったからだ。モラトリアムが終わりに差し掛かったというのに、私は社会に出る準備ができていなかった。自分が働いている姿がまったく想像できなくて、何かしたいこともなく、ただ安穏と無責任な生命体でいたかった。

もちろん世間体というものがあるから、私も仕方なく就職活動をした。当然すべて落ちる。面接官に説教されることも何度かあった。

私は忍耐と言うものがないから、3カ月ほどそんなことを繰り返して嫌になってしまった。自分のことを誰も知らない土地に引っ越して、これまでの人間関係を断ち切ってしまうことを想像していた。そこから時折手紙を出すのだ。

それである夏の夜、私は大学から帰宅するのを取りやめて海へ向かった。
コンビニで酒を買い込み、誰もいない砂浜で酒を飲んだ。

酔ってきた私は走り回った。コンクリ舗装の道から砂浜へ降りる、緩やかな階段があった。私はその手すりを飛び越えようとして引っかかり、顔から落ちて怪我をした。翌朝、駅のトイレで確認したところ大きめの擦り傷が3本くらいで済んでいた。

一晩は長かった。私は、人生を投げ出す勇気なんて自分にはないということを知っていた。私はただ、可能性を弄んでいるだけだった。如何なる具体的な行動もなかった。

夜が明けた。そこにいたのは汗と砂で汚れ、左頬いっぱいに数本の擦り傷をこさえた、若い酔っ払いだった。朝の光は、隠されていた惨めな現実を暴露する。
私は家に帰ることにした。

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