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でも時に宿る魂が大きすぎることがあって

大きな川が流れる山間の小さな町、奈良県吉野町に行ってきた。そこは500年の歴史を持つ日本最古の林業地と言われている。
昨年秋に吉野町のみなさんが僕らの町に来てくれて、早速今度は僕らが吉野町に行くことにしたのだ。吉野町で大きな製材所を営む石橋さんにお世話になり、建築家の長谷川豪さんとAirbnb共同創業者ジョー・ゲビアのコラボレーションによって建設された「吉野杉の家」に泊めていただき、その夜は関係者のみなさん集まって宴会をしていただいた。翌日は木工所や、吉野杉の学校机を毎年生徒が作って使っている中学校、石橋さんの製材所、吉野杉でつくった樽で日本酒を仕込んでいる作り酒屋さん等を丁寧に案内してもらった。

その吉野町に訪れる前に、吉野杉で家具を作る木工家の平井さんに連れて行ってもらったのが、お隣の川上村にある300年生の杉の山だ。車で山の入り口まで連れてきてもらい、少し歩いて、大きくて真っ直ぐ太くて高い杉の前に立つ。300年前に人が植えてそれからずっと手入れをし続けてきた杉。吉野林業には「撫育(ぶいく)」という言葉が伝わる。寒暖差の激しい吉野の自然風土とともに、何百年にもわたり、わが子を撫でるように山を育ててきた。何十年、何百年と自然の厳しさと人の手によって育ってきた木の前で、寒さに凍えながら、圧倒されて何も考えられなくなる。

僕の大好きな水木しげるの『のんのんばあとオレ』という漫画にこんな言葉がある。のんのんばあが、少女の死を悲しみ落ち込むしげる少年を諭す場面だ。
「身体は物を食うて大きくなるけど 人の心はなあ いろんな魂が宿るけん成長するんだよ」「小さい頃からいろんなものを見たり触ったりしてきちょるだろ 石には石の魂があるし 虫には虫の魂があるけんなあ」「そげんさまざまな魂が宿ったけん しげーさんはここまで成長したんですなあ でもときに宿る魂が大きすぎることがあってなあ」
「いまのオレか・・・」
「これから先はもっともっと重たい魂が宿るけんなあ でもしげーさんの心もその重たさをもちこたえるぐらいに大きくなって 大人になっていくんだでね」

300年生の杉の木には先達たちの、それはそれはたくさんの重たい魂が宿っている。その木を育て、伐り、運び、扱う人たちはもちろんのこと、その森に少しだけ入らせてもらっただけの僕にもその杉の大きな魂のほんの一部が宿るかもしれない。
今回お世話になった石橋さんはじめ吉野の人たちは本当に心が大きい大人だなあと感じたのだがさもありなん。吉野町や川上村は連綿と受け継がれてきた人と森の魂を宿した人たちがたくさん暮らす町なのだ。

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