ミシンって聞こえた人―2023/11/27日記

裁縫道具の「ミシン」の語源がmachineであるというのは、割と有名な雑学かもしれない。言い方を変えれば、「ミシン」と「マシン」という二つの日本語はどちらも同じ語を直接の由来としているのに、別々の単語に分かれてしまったということだ。(本当に英語のmachineから来ているのか確証がないが、ここではとりあえず英語由来ということにする。)

そんなアホな。昔の人はマシンと聞いてミシンに聞こえたなんて、ずいぶん変な耳をしていたんだなあと思ってしまいがちであるが、実際のmachineの発音を聞くと、意外とミシーンと聞こえなくもないのが面白い。
machineの発音記号は[məʃíːn]であり、[ə]はいわゆる曖昧母音というやつで、口の筋肉を弛緩しきったまま出す呻き声のような中途半端な音。日本語のカタカナに写すときはウ段が選ばれるのが今や暗黙のルールのようになっているが、実際音として聞いてみればアにもエにもイにも聞こえる。だからmachineはマシーンでもミシーンでもいいし、メシーンやムシーンであってもおかしくはない。(さすがにモシーンではおかしいと思うのは、日本語のオの円唇性によるものである。簡単に言うと、日本語の中でオは一番"わざとらしい"母音ということだ)
その中でミシーンが採用されたのにもちゃんと理由があって、その後に来るアクセントのついたイー[íː]に影響を受けていると考えれば説明がつく。何か曖昧な音が聞こえてよく分からなかったけど、その後に強いイーを聞いてしまうとその前も何となくイの音だったような気がしてしまう。というか発話している人の側でも、次に来るイーの準備として若干イ寄りの[ə]を発音してしまうというのは十分あり得るだろう。

似たような例がもう一つあって、「ストライク」と「ストライキ」はどちらもstrikeが直接の語源である。この最後のeは発音されず、k音の破裂で終わるのだが、日本語の体系では何か母音を補わないと表現できない。ここでは先に発音されたイの音が後ろに染み出してストライ"キ"となっている。

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