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【時事】賃上げムードに潜む危うさ 精緻な昇給のストーリーを

■参考記事
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD1534O0V10C23A1000000/

■サマリー
・春の労使交渉に向けて大手企業で積極的な賃上げを表明する動きが増えている。
・インフレ下では歓迎すべきことだが、人材への投資を企業の成長につなげられるかが問われる。
・投資家は社員の熱意の引き出し方により生産性を高め、さらなる賃上げの原資拡大につながるという好循環を期待している。
・欧米は市場価値と成果で報酬決定しているが、日本は未だ年功色が根強い。
・欧米の報酬決定方法は個人のモチベーションを高め、生みだす付加価値の向上を促しやすいが、日本では一律賃上げがいまも主流。
・職務ごとに必要なスキルのレベルや責任の重さなどによって報酬に差をつけ、
 公募制を通じて社員の選択肢を広げるジョブ型人材マネジメントの導入も検討課題になる。
・ISO30414の中でも「総給与に対する特定職の報酬割合」という指標があり、投資家からも注目されている。
 例)DX人材やAIに詳しい社員を特定職と位置づけ、総報酬に占める人件費を開示する、等
・日立製作所では希少で価値の高いスキルや知識を持つなどの従業員を「プロフェッショナル社員」という枠組みで採用し報酬制度を別にしている。
・一律の賃上げを否定はしないが、企業価値を高めるには人的資本の有効活用という視点が外せない。
・従業員が働きがいや仕事への意欲を持っているかどうかをみるエンゲージメント調査は重要。
 「調査と人的資本の有効活用は表裏一体のもの」
・ソニーグループでは各組織のマネジャーが、会社への信頼や働きやすさ・働きがいなどエンゲージメント調査の結果や
 社員のコメントをもとに、メンバーと対話しながら改善活動を進める。
・三井化学も調査結果を踏まえて各組織が改革に取り組んでおり、
 メガネレンズ材料や不織布などの事業部門は企画管理部に人材育成委員会を設置。
・インフレ下では、賃金の生活給としての側面に光が当たりがちだが、
 日本の賃金水準は先進国のなかで低く、社員の賃金の全体的な底上げが必要である。
・だが「人的資本経営」の観点からは、経営者は従業員への投資がどのように経営戦略の遂行を後押しし、
 価値創造につながるかをストーリーとして描いておかなくてはならない。

■深堀&思考
■深堀&思考
▼ダボス会議での動き
・西村経産相は18日、スイス東部のダボスで開かれている世界経済フォーラム(WEF)の
 年次総会(ダボス会議)で、今年の春闘(春季労使交渉)での賃上げは「5%プラスアルファをぜひお願いしたい」
 「プラスアルファこそが未来への投資であり日本の成長への投資になる」と訴えた。
・「外からのコストプッシュのインフレでなく、
 (賃金の上昇や需要の高まりがけん引する)デマンド・プルの緩やかなインフレに期待したい」と語った。
▼ISO30414の「コスト」の項目
・11項目・58指標で成り立つ。
・上記で触れた「③総給与に対する特定職の報酬割合」の指標は
 「コスト」項目の中に含まれており、その他には、
 ①総労働力コスト
 ②外部の労働力コスト
 ④総雇用コスト
 ⑤一人あたり採用コスト
 ⑥採用コスト
 ⑦離職にともなうコスト 等がある。
▼政府による「賃上げ」要請は妥当なのか?
・本来、賃金は企業の生産性(あるいは付加価値)に依存しており、
 政府が賃上げを要請したからといって、上がるようなものではない。
・さらに言えば、政府には賃金上昇を促すための環境整備が求められており、
 経済界に対してただ賃上げを求めるだけでは、無策と批判されても仕方ない。
・だが今回に限っては、政府が賃上げを要請することには一定の合理性がある。
・なぜなら日本の大企業は内部留保を過剰にため込んでおり、
 市場メカニズムから考えると、かなりの異常事態であるため。
・本来、企業というのは税引き後の利益について先行投資に回すのが責務であり、
 現金など流動資産を過剰に保有することは将来の収益を犠牲にする行為といえる。
・だが、現実に日本の大企業は過剰に内部留保をため込んで先行投資を抑制しており、
 結果として経済は成長せず、賃金の伸び悩みが続いている現状。
・企業が先に賃金を上げた場合、何もしなければ利益は確実に減少する。
 利益の減少に対して、非正規労働者の拡大による実質的な賃下げや、
 下請け企業への過剰な値引き要求など、安易なコスト削減に走らないよう政府は指導を強化していく必要がある。
・日本は形の上では、労働法制や下請け保護の法律が存在しており、既に環境は整っている。
 これらの法体系は有名無実化していた面があったが、政府はごく普通に法を執行するだけで、企業の経営に対して十分な影響力を行使できるはず。
・企業による安易なコスト削減の道を閉ざせば、企業はリスクを取って先行投資を行うという、正攻法での業績拡大を目指すことになる。
・企業は、先に賃金を上げるという背水の陣を敷けるのか、
 政府は持っている権限を企業に忖度せず行使できるのか、いずれもトップの覚悟が問われている。
※参考:https://news.yahoo.co.jp/articles/1ab5a20c5f1e3cb1213145adbc0a3bc319b269fb

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