運動制御とクライミング

 身体が運動をするという現象は、思った以上に複雑です。
 現代のトレーニング理論で注目されているエコロジカルアプローチは、身体運動は「個人と環境の相互作用によって生じる、知覚、認識、意思決定のプロセス」と定義されています。

身体を動かす=行為
この行為は、「何をするか(課題)」「どのような身体機能を持つ人がやるか」「どのような環境下でやるか」で決定されます。


 身体を動かすことは環境との相互関係であり、その環境を設定しないトレーニングは、実践への転移が得られないと言われます。
 環境を制約して行うトレーニング(例えばスペースを狭くしたり、何かしらのルールを設けたりする)を、制約主体型のトレーニングと呼びます。

 「個人と環境の相互作用によって生じる、知覚、認識、意思決定のプロセス」

 クライミングはこれなんです。クライミングすること自体が、身体(個人)と環境の相互作用なんです。
 クライミングをトレーニングすることは、エコロジカルアプローチなんですね。

 この薄さのホールドがその方向を向いて、そのくらいの距離にいる「から」、身体をそれに合わせて動かすわけです。まさにエコロジカルアプローチ。

 そしてクライミングをする上では、環境に対して自らの身体をなるべく都合よくフィットさせていくことが必要になります。

 クライミングの壁以外で行うトレーニングは、この「壁と課題に対して身体機能をフィットさせる能力」を高める内容にしていくことで、実践へ活かせるトレーニングになると考えています。

 そのためのキーポイントは、「環境を知覚するための柔軟性」と「ファンクショナルモビリティ」です。

①環境を知覚する
 
 下の図は、運動を引き起こしていくためのプロセスです。 (感覚運動プロセス)

真っ暗な部屋の中で電気をつけるときに、スイッチを探すことを想像しましょう。
目から入る情報がなくても、頭の中では「今自分はこの部屋のこの位置にこの向きで立っている」という、経験から得られた情報があります。そして、「この高さに手を上げればスイッチがあるから、このくらいの角度で手をあげてみよう」と、目に頼らなくても手を想定した角度まで動かすことができます。これも、筋肉や関節から得られる情報(位置覚や運動覚)を頼りに動かすわけです。人間は基本的に「感覚主導」で動いています。

 この感覚情報をしっかり察知するためには、各関節が柔軟に動くことが必要です。(関節が動かないと位置覚や運動覚が十分に機能できません)
 感覚情報が入らないことにより、筋出力は抑制されます。そのため過剰な出力が必要になり、必要以上のコストを消費してしまいます。

②ファンクショナルモビリティ

 ファンクショナルモビリティは、自分でコントロールできる可動域、です。
 身体が柔らかいだけではなく、可動域の隅から隅まである程度の筋力を発揮できる能力を示します。
 トレーニング初心者の方の懸垂って、肩や肘の可動域が狭いですよね?しかし、ある程度トレーニングを重ねると最大の可動域まで動かすことができるようになります。


全身の柔軟性があることで、身体状況の認知が生まれる。その情報と環境(壁の角度やホールド配置、指の引っかかり具合などなど)を統合し、壁に身体をフィットさせていきます。そのときに活きるのがファンクショナルモビリティです。

 伸び悩んでいることがあれば、柔軟性やファンクショナルモビリティを見直してみるのも、アリかもしれません。

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