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ショートショート作品集

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#ショートショートnote杯 に応募~入賞したのをきっかけに、410文字以内の短編を書き始めました。その自作品をまとめたものです。
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2021年11月の記事一覧

『ノリ薬』 #ショートショートnote杯

――受賞の言葉に変えて。 小学校時代、僕が誰とも口をきけず孤立してると知った母は、かかりつけ医に処方してもらったと言って「薬」を差し出した。 「毎日舐めていくと、ノリが良くなって喋れるようになるの」 ひと舐めして「きな粉」だと分かったけれど、僕は騙されたふりをした。心配を掛けたくなかったし、何より思いやりに応えたかったから。 「今日は少し友達と話すことができたよ」 翌日から母に「薬が効いている」嘘の報告をするのが日課になった。 友達に勉強を教えてあげた。 友達とお楽しみ会で

『道に落ちていた立方体』 #ショートショートnote杯

男は死のうと思っていた。 不治の病で余命一年を宣告された帰り道。 未来に絶望し飛び込もうと思った国道で、■を拾った。 ブラックボックス。中身は見えない。 だが男は不思議と■が気になり家に持ち帰った。 その晩、■をベッドサイドに置いて眠りについた。 奇跡のような、変わったことは起きなかった。 次の日、その次の日も、日常に大きな変化はなかった。 ある時ふと思い立ち、■をひっくり返してみた。 すると■からカラン、と乾いた音が聞こえたような気がした。 何も起きはしなかったがそこから毎

『とびバス』 #ショートショートnote杯

小雨が降っている。 ピーヒョロロ。 不思議なクラクションを鳴らし、一台の黒いバスが来る。 ロータリーをぐるりと旋回し、一人の男の前に止まってドアを開いた。 「ご乗車下さい。まもなく、跳びばす」 男が吸い寄せられるように乗車すると、すぐに動き出した。 男の体はふっと軽くなり、空中を漂う感覚になった。 窓外の景色に息をのむ。 そこには、かつて男が人生で幸せを感じた――妻との結婚、長男の誕生、初めての家族旅行の場面が流れていた。 「この時に戻れたら……」 男が呟くと、バスが呼応す