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ショートショート作品集

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#ショートショートnote杯 に応募~入賞したのをきっかけに、410文字以内の短編を書き始めました。その自作品をまとめたものです。
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記事一覧

【ショートショート】 『ジドーラモ(児童らも)』 #410文字

らも君は陽気な児童。 「おはよう」「元気?」「かわいいね」 誰にでも気軽に挨拶する。 今日も園庭にいたちょい不良風のオヤジに、 「久しぶりだね」と声を掛けた。 ……どこで会った? 男は記憶をたどって思いだす。 一カ月前のピッツァ「ナポリ」 閉店後に忍び込み一仕事終えて出てきた時に 「ピザ好きなの?」 と声を掛けてきたあの子だ。 ……俺のこと、覚えてやがるのか? 男に悪魔がよぎった瞬間 「泥棒! 金庫荒らし!」 園舎で園長の叫び声が上がった。 「おじさん、ドロボー?」 らも

【ショートショート】『飲み込んだココロ』 #うたスト 応募作品

シャンペングラスを合わせる。 「終わったよ。大成功だ」と博士は言った。 研究から解放された喜びと安堵が表情に見て取れる。 博士は「全て君のおかげだ」と付け足し、私の肩を叩いた。 メタバースでの恋愛プロジェクト。 VRユーザーとして多くの異性と交際する。 博士の開発したAIは、会話や感情表現に瑕疵がなく共感力も伴って半永久的に人間のパートナーになれると証明された。 「KK0704」 博士が番号を呼び、 「最大の感謝を贈る」と頬にキスをした。 私が微笑むと、 「不思議だ。時に

『(遺伝子組み換えではない)アイドル誕生⁉』 410文字 ショートショート (+創作メモ)

薄い頭髪をなびかせダンスを踊る。 腹の出た太っちょがだみ声で歌いあげる。 リーダーは大きな顔面の小さな瞳で流し目を。 頬骨の出たタラコ唇が黄色い声に「愛し合おうぜ」と拳を上げた。 世紀末アイドル「ネイチャーズ」。還暦の男性グループ。 実母の自然妊娠によって生まれた世代最後の生き残り。 マスクをとった素顔は稀に見る不細工で世の女性を虜にした。 人並以下の音楽的才能。空中浮遊すら出来ない運動能力。 寿命は百歳と、通常の遺伝子操作で生まれた人間より半分以上短い。 だからこその熱

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『砂場の成人式』 410文字 ショートショート (+創作メモ)

恵には常に違和感があった。 二十歳の誕生日に両親と思っていた人から初めて「真実」を聞かされ、ようやく腑に落ちた。もちろん二人には感謝しかない。大学まで行かせてくれ、一人暮らしの願望も仕送り付きで許してくれた。 恵は自分がかつて暮らしていたという町で新生活を始めた。その年末は実家にも帰らず、年明けも地元の友人たちの誘いを断り一人で過ごした。 その日。駅からアパートの途中にある児童公園に寄り道をし、ベンチで時間を潰した。ふと砂場の山が目に留まった瞬間、うわっと記憶の扉が開いた。

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【ショートショート】『アラームが告げるもの』 (+創作メモ)

ナルは新入社員。初日から大遅刻して上司に「目覚まし10個かけとけ」と叱られた。以来、スマホにアラームを複数セットして寝るのが習慣に。 起床だけでなく出勤、業務、昼食、帰宅、猫の餌の時間……全てにアラームをかけた。かけないと落ち着かないのだ。 休日、学生時代からの彼氏とデート。ナルがいちいちアラームに反応していたら、映画途中で退席しそのまま音信不通になった。 傷心にまたアラームが鳴る。「なんの知らせ? もうやだっ」 ある朝、アラームが鳴らなくなった。飛び起きて確認すると故障

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『お詫びにコンニチハ』 410文字 ショートショート +創作メモ (無料)

一歳の息子は春から保育園に通う。彼が園で友達とうまくやっていけるか。心配になった私は、挨拶の言葉だけでもと必要最小限の四つ―― 「こんにちは」「ありがとう」「ごめんね」「バイバイ」を教えることに。 だけど一歳には難しかった。仕事に行くママに「ごねんね」と手を振ったり、ばあばがプレゼントを買ってくれるや「バイバイ」して悲しませたり。飼ってる子犬のコンちゃんにも「あいがと」と言って話しかける始末。 どうやら使う場面を間違って覚えたよう。 ある日、犬の散歩に出かける際、息子の作

ショートショートnote杯 入賞の喜びとして~『半笑いの二重人格』

ノックの音がした。 続けて「410文字で物語を書いてみないか?」と誘いの声。 「毎日400文字の日記を書いてるだろ、同じだよ」と被せてくる。 日記や台本とは違う。 小説なんぞ書いたことがない。 ショートショートも星新一すら読んだことがない。 「影響受けてるぞ」 え? 例題を見ながら「ドラマのプロット書きと思えば?」 分かった風の助言にカチンとくる。 そんな都合よく書けるわけ……あ、書けた。 「騙されたと思って」もう一本。 『空飛ぶストレート』(※受賞作) 一ヶ月前に亡

『ノリ薬』 #ショートショートnote杯

――受賞の言葉に変えて。 小学校時代、僕が誰とも口をきけず孤立してると知った母は、かかりつけ医に処方してもらったと言って「薬」を差し出した。 「毎日舐めていくと、ノリが良くなって喋れるようになるの」 ひと舐めして「きな粉」だと分かったけれど、僕は騙されたふりをした。心配を掛けたくなかったし、何より思いやりに応えたかったから。 「今日は少し友達と話すことができたよ」 翌日から母に「薬が効いている」嘘の報告をするのが日課になった。 友達に勉強を教えてあげた。 友達とお楽しみ会で

『道に落ちていた立方体』 #ショートショートnote杯

男は死のうと思っていた。 不治の病で余命一年を宣告された帰り道。 未来に絶望し飛び込もうと思った国道で、■を拾った。 ブラックボックス。中身は見えない。 だが男は不思議と■が気になり家に持ち帰った。 その晩、■をベッドサイドに置いて眠りについた。 奇跡のような、変わったことは起きなかった。 次の日、その次の日も、日常に大きな変化はなかった。 ある時ふと思い立ち、■をひっくり返してみた。 すると■からカラン、と乾いた音が聞こえたような気がした。 何も起きはしなかったがそこから毎

『とびバス』 #ショートショートnote杯

小雨が降っている。 ピーヒョロロ。 不思議なクラクションを鳴らし、一台の黒いバスが来る。 ロータリーをぐるりと旋回し、一人の男の前に止まってドアを開いた。 「ご乗車下さい。まもなく、跳びばす」 男が吸い寄せられるように乗車すると、すぐに動き出した。 男の体はふっと軽くなり、空中を漂う感覚になった。 窓外の景色に息をのむ。 そこには、かつて男が人生で幸せを感じた――妻との結婚、長男の誕生、初めての家族旅行の場面が流れていた。 「この時に戻れたら……」 男が呟くと、バスが呼応す

『失恋履歴書』 #ショートショートnote杯

小学校時代から使う机。 鍵のある一番上の抽斗には、幸子の秘密が入っている。 履歴書。 小学6年の時に、大人ぶって購入した普通のもの。 写真にプリクラを貼って名前・連絡先を書き入れたところで筆が止まった。 次に書く学歴がない。もちろん職歴も。 幸子は思いついて、ある人の名を書いた。 顔が真っ赤になり、そのまま抽斗に入れ鍵をかけた。 二ヶ月後、幸子は履歴書の存在を思いだし再び取り出した。 名前の横に「卒業」と文字を添えた。 幸子は面白くなって破らずに保管した。それがはじまり。

『金持ちジュリエット』 #ショートショートnote杯 応募作品

ホームレスの老女が凍死した。 それが小さなニュースになったのは、老女がSNSを中心に若い女性たちの間で「恋愛成就のパワースポット」として有名だったからだ。 本場イタリア・ヴェローナにある「ジュリエットの家」の壁には、世界中の恋に悩む乙女たちの手紙が、今もひっきりなしに貼られる。その日本版と言ったところか。 違うのは老女の家は、橋の下のビニールシート。 ある日、誰かがいたずらに手紙を投げ入れたら嘘か誠か恋が叶った―― というツイートをした。 それがバズり、以降、毎日数通の「

『1億円の低カロリー』 #ショートショートnote杯 応募作品

これは、訪問看護師の私が担当した、Kさん夫婦の心温まるお話です。 Kさんは、日々カロリー制限を強いられてる重病患者。 よく愚痴を言っていました。 「美味しいものを好きなだけ食べて死んだ方がましだ」 ある日、奥様が料理人を連れて来ました。 「美味しくて低カロリーの料理を彼に作ってもらいましょう」 Kさんは喜びましたが、特別料理のひと月分の値段を聞いて失望します。 「一億円なんて払えない」 奥様が言います。 「私が借金して払います」 その愛情に、Kさんは二度と贅沢したいとは言

『数学ギョウザ』 #ショートショートnote杯 応募作品

――夕飯は何? 妻に聞こうとして目が留まる。 四歳の息子が紙に何やら書き付けていた。 150+180+30= まさかの数式。三桁の足し算。 神童かよ。 さらに書いた答えには―― 150+180+30=X0 X0? 息子は「出来た」と満足気。 訳が分からず近寄ると紙の横にもう一枚。 妻の字によるメモがあった。 息子はそれを書き写していたのだ。 メモにある本当の式は―― 150± 180≠ 30=XO ……私の知らない数学。 と、台所にいた妻がメモを見に来て「なるほど