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『ノリ薬』 #ショートショートnote杯

――受賞の言葉に変えて。

小学校時代、僕が誰とも口をきけず孤立してると知った母は、かかりつけ医に処方してもらったと言って「薬」を差し出した。
「毎日舐めていくと、ノリが良くなって喋れるようになるの」
ひと舐めして「きな粉」だと分かったけれど、僕は騙されたふりをした。心配を掛けたくなかったし、何より思いやりに応えたかったから。
「今日は少し友達と話すことができたよ」
翌日から母に「薬が効いている」嘘の報告をするのが日課になった。
友達に勉強を教えてあげた。
友達とお楽しみ会でコントをやった。
女の子を巡って言い争いしちゃったよ。
切ない話と思わないで。
僕は実際、その妄想によって救われていたわけだから。

あれから三十余年。
僕は今、作家と呼ばれる仕事をしてる。
執筆に行き詰ったときはいつも「きな粉」を舐めるのが常。
どんな話を母にしようか――。
発想の原点に立ち返ると、筆がノッて物語が動き出す。



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※上記は #ショートショートnote杯 に応募したフィクション作品ですが、元になった原体験の日記はこちらです。↓↓


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