リチャード・ジュエル(2019年/アメリカ) ネタバレあり感想 冤罪の齎す悲劇と公権力の暴走が生々しい映画。
それでもボクはやってない。
『リチャード・ジュエル』
(Richard Jewell)
以下、ネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
アトランタ五輪会場の近く、記念イベントが行われていた公園で爆弾を発見した警備員のリチャード・ジュエル。
爆発で犠牲者が出てしまうものの、リチャードの迅速な対応で最小限に被害が抑えられ彼は英雄となる。
ところが、FBIが第一発見者のリチャードを容疑者として調べている事、それをアトランタジャーナルの記者が大々的に報道した事で、リチャードは英雄から一転し犯人扱いされ、FBIとメディアとの戦いに身を投じる。
■感想
実際に起きた事件とそれによって犯人扱いされた無実の男を題材にした映画。
"良い意味"で双方向性や中立的な視点に欠けるというか、あくまで主人公、当事者の視点や主張を重点的に描いた映画でした。
実際、主人公リチャードは冤罪によって母親共々地獄のような日々を送らなければならなくなる最大の被害者であり、そんな彼が体験した地獄を演出する為に敵を明確にする事は必要ですが、この映画で登場する敵ことマスメディアとFBIの描かれ方はとにかく暴走した権力っぽい雰囲気がでろんでろんに漂ってます。
リチャードは正義に熱い男で、彼の必死の活躍で爆破テロの被害が抑えられるものの、その後犯人扱いされ、生活が破壊され、それでも無実を訴え続け容疑が晴れるのですが、最後には憧れですらあったFBIに対して失望の色を見せているような終わり方をします。
自分の中の正義を全うできる男が、FBIという正義の組織に対して失望するという流れな訳で、リチャードの存在そのものが公権力の腐敗の対比になっているようにも見えました。
というか序盤あたりで、後にリチャードの弁護士として彼と共に戦う事になるワトソン・ブライアントが「権力は人をモンスターにする」とリチャードに忠告しているシーンがあります。
これがこの映画で描きたかったものの根底そのものだと思うんですよね。
冤罪に立ち向かう真実の為の戦いという面白さもあれど、本質的に公権力の暴走やメディアの扇動といった問題が強く印象付けられるような作りで、それが招いた悲劇が重点的に描かれていたと思います。
マスメディアの扇動によって事が大きくなったのは事実ですが、この映画のFBIはとにかく黒い点も特徴的だと思います。
純粋無垢っぽいリチャードを騙すように、強制的に犯人にしたてあげようとするシーンが多々あり、推定無罪もクソも無い犯人作りに励む姿が多すぎました。
FBI捜査官の一人に至っては、容疑が晴れた事を通達するシーンで負け惜しみを言わせていたりと、無実であるリチャードに対するFBIやメディアの動向に正義が感じられない描写の数々をぶっこんでいます。腐敗した公権力をどうどうと描くあたり、クリント・イーストウッド監督っぽさを感じます。
■〆
個人評価:★★★☆☆
主人公のストーリーとしてはハッピーエンドですが、その事態を招いた根幹は何も変わらないという状態が非常にアンハッピーという中々に批判精神の強い映画でした。
冤罪かけられた人間が無罪を主張する事の難しさ、更にその相手が国家権力たるFBIであるという超エクストリームハードな状況を巻き返した男の映画としても楽しめます。
ではまた。
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