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「一重まぶた」のスターが増える、韓流ドラマを観て思うこと

 『築地本願寺新報』で連載中のエッセイストの酒井順子さんの「あっち、こっち、どっち?」。毎号、酒井さんが二つの異なる言葉を取り上げて紹介していきます。今回のテーマは「一重」と「二重」です(本記事は2021年7月に築地本願寺新報に掲載されたものを再掲載しています)。


  コロナ時代となって以降、韓国ドラマをよく見るようになった私。話題の『愛の不時着』から始まって、様々なドラマに手を伸ばすようになりました。

 そんな中で目についたのは、韓国ドラマ界における一重まぶた俳優の活躍ぶりでした。男性でも女性でも、人気俳優における一重まぶた率が、日本よりもぐっと高いのであり、特に女性一重俳優の多さには驚かされました。

 日本において美人とされる女性俳優と言うと、誰しも二重まぶた。たまに奥二重っぽい人がいるかな、くらいの感覚です。もちろん一重まぶたの女性俳優もいるものの、たいていは「個性派」とか「バイプレイヤー」といった立場ではないか。

 対して韓国ドラマにおいては、二重でも奥二重でもない、純粋一重まぶたの女性俳優が恋愛ドラマで主役を張っており、なおかつたいそうな人気なのだそう。それも特殊事例というわけではなく、一重まぶたで主役級の女性俳優が何人もいるのです。

 韓国は、整形大国としても知られています。日本よりもオープンに美容整形をするらしく、以前韓国に行った時に話をした女性も、「私も、目は二重にしましたよ〜」
 と、気軽に教えてくれましたっけ。

 そんな国だからこそ、皆が二重まぶたを目指しているのかと思ったら、そうではないようです。韓国の知人によると、
「ぱっちりとした二重が好みの人もいれば、糸のような目が好きな人もいて、人気のある顔が二タイプに分かれている」
 とのこと。

 その話を聞いて私は、「韓国は一歩先を行っている!」と感じました。整形で二重にする人もたくさんいるものの、一方では一重まぶたの女性もトップスターとして活躍しているということは、一重の市民権が日本よりも確立されているということではないか。
 
 対して日本では、特に女性の間での二重信仰が強力です。整形手術は躊躇しても、糊のような化粧品を使用してインスタント二重を作ったりと、涙ぐましい努力が行われているのです。
 
 このような現象を見ていると、どうやら韓国の人々の方が我々よりも一足先に、一重まぶたを欠点ではなく美点として捉えることに成功しているようなのでした。世界的な人気を誇る男性アイドルグループのBTSにしても、メンバーの多くが一重まぶた。無理に西洋に寄せるのではなく、一重まぶたという東アジア人の特徴をそのままに、彼等は世界的な成功をおさめました。
 
 「ありのままで」的な言説が幅をきかせていながら、東アジア人らしい一重まぶたを誇りに思えない人が日本に多いのは、明治期以降、様々な面で欧米を真似してきた我々の習い性なのかもしれません。真似は上手だが、オリジナルの部分で勝負するのが苦手、という国民性も関係しているのか。他の部分では「日本の良さを世界の国々が賞賛している」といった言葉に酔いがちな日本人が、自分達のまぶたの「ありのまま」の形状を好きになることができないとは、これいかに……。
 
 非ぱっちり系の目の持ち主の私は、一重まぶたの美が、日本でも広まればいいなぁと思う者。しかし最近は多くの流行が韓国からやってきますので、もう少ししたら日本でも一重ブームがやってくるのかも、と期待しております。

酒井 順子(さかい・じゅんこ)
エッセイスト。1966 年東京生まれ。大学卒業後、広告会社勤務を経てエッセイ執筆に専念。2003 年に刊行した『負け犬の遠吠え』がべストセラーとなり、講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。近著に『鉄道無常 内田百閒と宮脇俊三を読む』(KADOKAWA) など。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。