[短編小説]スプーン配りおばさん

 とある街にどこにでもいる、魔女のおばさんが住んでいました。
 魔女のおばさんは日夜、幸せを掬いとる魔法のスプーンを、作ったり配ったりで大忙しです。
 街の人は彼女のことをスプーン配りおばさんと呼んで親しくしてくれていました。

 ほら今日もまた誰かに幸せのスプーンを配っています。

「くそっ練習でケガしちゃった、しばらく大好きなサッカーが出来ないよ」

「そんな坊やにはこのスプーンをあげよう、劇的に何か変わりはしないだろうけどね、少し幸せを運んできてくれるかもだよ」

「おばさんがスプーン配りおばさんだね、ありがとう大事にするよ」

 こっちでは女の子が泣いていました。

「最近パパとママがずっとケンカしてるの、毎日がツラい」

「そんなお嬢ちゃんにはこのスプーンをあげよう、劇的に何か変わりはしないだろうけどね、少し幸せを運んできてくれるかもだよ」

 こんな調子で出会う人、出会う人にスプーンを配っている、魔女のスプーン配りおばさんでした。


 そんなある日、スプーン配りおばさんのところへ小さなお客さんがやって来ました。

「思ったより早くケガが治って、またサッカーが出来るようになったよ、ありがとねスプーン配りおばさん」

「わたしのところは最近パパとママが仲直りして、とっても幸せ、ありがとうスプーン配りおばさん」

「それでね2人で話してたんだけど、ぼくたちにスプーン配りを手伝わせて貰えないでしょうか」

「お願いします、みんなにもわたしたちのように幸せになってもらいたいの」

 少し考えてから、魔女のスプーン配りおばさんは答えます。

「スプーン配りしながら色んな人と出会えるのも楽しいんだけどね、坊やたちの気持ちは嬉しいし、それならお願いしようかね」

「やった〜ありがとうスプーン配りおばさん」

「わたしたち頑張ってスプーンを配ります」

 それから小さなスプーン配り少年少女は、張り切って幸せのスプーンを配り、スプーン配りおばさんはせっせと魔法のスプーンを作る日々が続きました。

 それがかなりの間続いたでしょうか、小さな事件が起きました。

「えっもうスプーンがないの?ぼくたち配りすぎちゃったかな?」

「そうじゃないよ、私が少し調子を崩してしまってね、なかなか数は作れないんでいるんだよ」

「……まさかとは思うけどおばさんは今、自分の分のスプーンを持っていますか?」

「ああそういえばスプーンの数が足りなくて配る分に回しちゃったね」

「だから体調を崩したのよ、わたしのもらったスプーン一旦返します、スプーン配りおばさんが体調良くなるまで」

「いやいやそれはスプーン配りおばさんとしては出来ないね、人に幸せを配りはしても人の幸せを奪うかもしれない事は出来ないよ」

「それじゃあどうすれば……」

 そこへドロンと煙が立ち込めたと思ったら、中から別の魔女さんが現れました。

「あんたは隣街の魔女さんじゃないかい、今日はどうしましたか」

「ご無沙汰だねスプーン配りおばさん、いえねちょっと話を聞き付けて家に余ってたスプーンを持ってきたのよ」

「わぁ〜魔法のスプーンがこんなにたくさん、これがあればたくさんの人が救えるね」

「いいんですか?隣街の魔女さん」

「困った時はお互い様、っていうか私のスプーンはスプーン配りおばさんのスプーンに掬われてやって来た小さな幸せ、幸せが幸せを呼んだんですよ」

 こうしてスプーン配りは再開され、スプーン配りおばさんは少し休息を取り、調子を取り戻してスプーン作りを始めることが出来ました。

 それからスプーン配りおばさんの街の人たちも、もちろん隣街の魔女さんの街の人たちもみな幸せに暮らしましたとさ。


おしまい

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