「責任と努力」を伴うUXデザイン

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエ イティブリーダシップ特論 第13回 藤井保文さん(2020年8月10日)

 クリエイティブリーダシップ特論・第13回の講師は、株式会社ビービットの東アジア営業責任者・エクスペリエンスデザイナーの藤井保文さんです。
 ご著書「アフターデジタル」「アフターデジタル2」がベストセラーとなり、UXの分野で大変注目されている方です。

 ご講義の前半では、
① 中国におけるデジタル化の浸透
② デジタルを起点にリアルが顧客との貴重な接点になる、リアルがデジタルに包含されたアフターデジタルの世界観
③ 顧客情報が属性データ→行動データに深化して、企業競争の焦点が製品→体験全体での価値提供に移行する
④ アフターデジタルにおける成功企業の共通項は「OMO」(オンラインとオフラインがループする)の思考法にある
⑤ アフターデジタルの産業構造は、決済プラットフォーマー、サービサー、製品販売の順に上位となる
といったお話をいただきましたが、自分が仕事で対応しているビジネス関連分野の発明相談では、そのあたりは少なくとも数年前から明確なトレンドとして意識されている印象で、企業の経営層やマネージャー層にまだ浸透していない現状に、やや意外感がありました。
 また、③や⑤、特にユーザの行動に合わせたタイミングで最適化された情報が提供されるといった例を聞きながら、第5回でご講義いただいた古賀徹先生がご著書「デザインに哲学は必要か」の「自由を設計するデザイン」で提言されている「デザイン1.0~デザイン3.0」の分類における「デザイン2.0」、すなわち「技術を人間化する工業技術、その設計図をアログラフィック に描くデザイン」(豚のと畜システムの話)を思い出し、そこに邁進するだけでよいのだろうか、と感じたりしていました。

 ところが、そこにはやはり続きがあって、藤井さんが特に力を入れて後半でお話しされたのが、テクノロジーとUXで社会アーキテクチャを作る際に求められる「責任と努力」についてです。
 中国において、アリババの信用スコアが消費者の行動改善を促したとか、タクシー配車のDiDiの評価システムがドライバーのサービス品質の向上につながっているとかいった例は非常にわかりやすく、そのシステムが社会をどのように変容させるかといった視点は、とても重要になっていくと思います。古賀先生の本では、「デザインは技術を洗練させるとともに、その技術を要求される人間に対し、『本当にそれでよいのか』と同時に問いかける技術でなくてはならない」として、それを「デザイン3.0(問いを発するデザイン)」と位置づけていますが、同じ問題意識に基づくものと理解してよいのでしょう。
 最先端のAIで若年層を簡単に1~2時間もスマホに釘付けにするサービスを核にした企業が時価総額世界最大のユニコーンとして評価されている、といった現状に違和感を拭えない自分にとって、そこは特に腹落ちするお話でした。

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