【感想文】スパイダーバース

正直"予告詐欺"とも言えるほど、事前の印象とはまったく違う印象を受ける傑作。

タイトルと事前情報通り、基本的には『あらゆる平行世界からやってきた別のスパイダーマンたちが協力して巨大な陰謀を打ち砕く』映画ではあるが、それは完全なるサブプロットでしかない。

重要なのは主人公であるマイルズ・モラルスのオリジン(ヒーローがなぜヒーローになったのか)であり、物語の主軸はそこにある。

アメコミは長大な歴史を持つが故に、知らない人からしたら『マジで???』と言いたくなるくらい、やってないことがない世界である。平行世界はもちろん、2代目、女体化、悪堕ち、ありとあらゆるifはやり尽くしている。だが、本作はその役割をあくまで初代スパイダーマンであるピーター・パーカーに背負わせ、2代目にあたるマイルズの成長物語を彩るフレーバーとしている。

この映画はいい意味で、マイルズ以外の要素を平坦にすることに成功している。何かが濃すぎると、マイルズの存在感は薄れてしまうが、その塩梅がうまい。かといって、他のスパイダーマンたちが薄いかというとそんなことはなく、ピーター・B・パーカーを始めとして、それぞれの物語も非常にいい切り口で描いている。無駄は少なく、かといって彼らの物語にも何かしらのオチを用意しており、満足感を与えてくれる。

それは、本作のメインヴィラン(悪役)であるキングピンにも言える。

キングピンに関して描かれることは(すごい漫画的アプローチで描かれた肩幅を除けば)必要最低限ながら、哀愁感をもったキャラクターを作り上げている。これは、見事だ。なにせ本作は登場人物がとにかく多い作品だ。スパイダーマンは複数出てくるし、キングピンの手下もいるし、マイルズの物語に必要な人々も描かれる。その中でキングピンが決して掠れることなく悪役として確固たる存在感を示している。非常に物語が練られていると感じさせる。

本作がアメコミヒーローとして初めて見るならば、一部のおやくそくなどは理解できなくて混乱するかもしれない。が、マイルズの物語として丁寧に描くことが、マニア以外でも決して振り落とされることなく最後まで楽しめる作品として完成されている。初心者から今後のスパイダーバースを期待するようなオタクからもワクワクさせられる作品だ。

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