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さかなでパフェをつくりませう「魚力」渋谷東急百貨店東横店

東急百貨店の東横店、駅に近いためによく訪れてきたが、地階に入ると、どこに出るのかさっぱり見当がつかない。地階にあるすし店は、持ち帰りのすしを大量に売っているが、イートインスペースも併設されている。かなり人気があるのではなかろうか。もう十年以上おじゃましている気がするのだが。

東京で人気のすし店ではあたりまえだが、まず間違いなくマグロの握りが美味い。そして、買い物ついでにふらりと立ち寄って、すしをつまんで帰るなんて、ずいぶん素敵な話である。ぜいたく。

ふと、その昔、こちらのイートインスペースのカウンターであった思い出話をしようと思った。

あるとき、イートインスペースでは季節のサービスセットを企画して、訪れた客を楽しませていた。そのサービスセットとは、

「寿司パフェ!女性にも大好評。」

というものだった。「パフェ」?いやいや、そんなものいらない。握りずしを食べに来ているのだから…、と私は当初怪訝に思っていた。

しかし、次に店を訪れたときにもこの「寿司パフェ」のメニューは健在であった。しかも、訪れる客の大半がこの寿司パフェを頼んでいるようだ。

よくよく確認すると、この「すしパフェ」なるものは、ガラスの器…かき氷やプリンの好いやつを喫茶店で頼むとでてくるあれ…に酢飯を盛って、まぐろやエビなどを豪華に乗せた、海鮮ちらし寿司だという。サービスセットらしく、普通の海鮮ちらしよりもたっぷりマグロや何やらが入っているので、多くの客に人気を博しているというわけだ。

これは失礼しました。

私もさっそく「すしパフェ」なるものを頂いた。なるほど、相当コスパが良い。それ以降、「すしパフェ」がある間はこのメニューを好んで注文したのだ。

そして、ある日、何度目かのすしパフェを注文して、楽しみにしながらビールを飲んでいたのだが…。この日のすしパフェは一味違っていたのである。

すしが手前に到着して、まず、目についたのは、ピンク色の見事な中トロの刺身がガラスの器のふちからどんよりとした様子で流れ落ちんばかりの様子であったこと。タイの刺身も同様に、刺身の半分がガラスの器からしなだれ落ちようとしていた。マグロやタイだけでなく、主要な海鮮がガラスのうつわの「ふち」から半分くらい出てしまっていた。

私は何か悪いことをしたのだろうか?私のような青二才が一人前にすしなどを喰らおうとしたことに、店の人が腹を立てているのであろうか。止めどもない不安が頭をよぎる。

しかし、しばらく考えてみて、ふと思い当たった。今日、寿司を拵えてくれた職人さんは、大変まじめな人間だったのだ。すなわち、すし「パフェ」と銘打ったからには、なんとしてでも海鮮ネタで「パフェ」を再現せねばならぬ。「パフェ」と言えば、まずは器の下の方にアイスを詰め込んでいるから、この部分は酢飯で再現できる。そして、甘い「パフェ」の頂上部分に飾ってある、リンゴやバナナの飾り切り……あれをマグロやタイの刺身で再現する……刺身がガラスの器のふち部分からピンと立つイメージだ。それを実行してこそ「すしパフェ」というにふさわしい…きっとそう考えたに違いない。

思わず笑いが込み上げてきたが、ガラスの器からはみ出したネタを箸ですくい上げながら、そのままおいしく頂いた。今思い出してもにやにや笑いが止まらなくなる。

しかしそれ以来、イートインスペースで「すしパフェ」がメニューにのったのを見たことがない。

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