見出し画像

じっと手をみる「森本」渋谷

渋谷駅のマークシティの辺りはあまり治安が良くないなんて言われている。歓楽街も鬱蒼としていて、一人歩きには向かない雰囲気が漂う。

しかしながらこの近隣には名店と呼ばれる飲食店が沢山ある。森本もその一つだ。焼き鳥とうなぎの串焼きが有名な昔ながらの東京の居酒屋だ。

まあ、うなぎがこれほど手に入らなくなるとは誰も考え付きやしなかったわけです。うなぎの高騰にも関わらず、こちらでは焼き鳥の串にうねうね曲がったうなぎがこんがり焼かれて提供される。老舗の心意気です。でも数年したらこんなものは食べられなくなるかもしれないですね。

そして焼き鳥。森本の真骨頂といえば、半生のササミだ。自分的には。

通常、焼き鳥屋でササミの串を頼むと小ぶりなささみを一本串に刺し、よく焼いたものにわさびをさっと塗って出してくれる。

ところが森本では、ササミはサッとあぶる程度、カツオのたたきの要領だ。これを食べやすい大きさに切って串に刺し、おろしたてのワサビをちょちょちょ、と載せて出してくれる。鳥の刺身を得意とする森本ならではの贅沢な一品だ。似たような串を出す店も確かにあるが、ササミの半生感で森本以上の店に出会ったことはない。

美しいササミの切り目にほんのりピンク色の「生」部分が溢れ見える。森本に来るたびこちらを頼むのだが、いつも口に入れる直前に躊躇する。

万が一、いや百万が一に、お腹を壊すようなことがあったら、なんて言おう。いや、そんな心配がないからこうして半生ササミが提供されるわけだが。…しかし世の中に100%安全ということはないわけで。しかし食べるならば出来るだけ速やかに口に入れたほうが安全である気もする…

様々に逡巡した後、じっと串を見つめる。しかし結局パクリといただく。ほかに道がない。やがて生ビールのジョッキがスーッと空になる。

客層は渋い店に相応しくちょっと年配が多いように見える。ただ、中にはキラキラしたサングラスにドクロのシルバーアクセを付けたお兄さん、付けまつ毛華やかなお姉さんたちが参入してくることもあり、何とも渋谷らしいのが好印象。

半生ササミのあれやこれやは良くも悪くも金色の麦酒が洗い流してくれるから心配なさらず。(そういえばササミ、よく味わって食べたことがない。)

気にならない方には素晴らしいお店です。気になる方はうなぎをどうぞ。使い古された言い回しですが、大抵のことはアルコールに洗い流してもらいましょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?