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ちょっとずつ声を上げることで社会は変えられる。――辻愛沙子さんに聞く、誰もが今日からできる「声の上げ方」(後編)

ユニークな“社会派クリエイティブ”を数多く手がける辻愛沙子さん。世の中で気になることがあったとき、若者たちは何ができるのでしょうか? 後編では、誰もが今日からできる「声の上げ方」について、聞きました。

▼前編はこちらからお読みいただけます。
「社会に声を上げて、後悔したことはありません」――辻愛沙子さんが意見を発信する理由

1. 若い世代の「意見を発信したい」という思いは社会の希望

Q:学校総選挙プロジェクトのアンケートでは「社会課題に対して、意思表示や意見発信をしたい」と答えた高校生や10代が多くいました。辻さんはどのように思いますか?

高校生や18~19歳の半分以上が「意見を発信したい」と思っていて、4割くらいは実際に発信もしている。この結果って、ものすごい希望ですよね。なのに、20~30代になると消極的になっていっちゃう……。
いまの社会では「大人になること」と「青臭さを手放すこと」が、同義になってしまっている気がします。「真面目ぶってるんじゃねぇ」「熱くなりすぎ」みたいな冷笑的な目もあるし、大人なら空気を読まなきゃいけないというムードもあるし。

でも、10代のときってお互い言わないだけで、結構熱い想いを秘めていたりしたじゃないですか? だから本当は、そういう10代の青臭さを持ちながら生きていける世の中を、大人がきちんと守っていかなきゃいけないんだろうなって思います。

これからも私は、声を上げ続けていくつもりです。いま私がいきなり黙ったら「声を上げるとやっぱり折れちゃうんだ」というふうに見えてしまうから、そういう例をつくりたくない思いもあります。

ただ、毎日毎日熱くなりすぎると自分の心が疲れてしまう。だから、自分の中での熱量の変動も受け入れて、「こうしなくちゃ!」と義務化しないっていうことが大事だと思っています。日ごろからいろんなことを考えておいて、声を上げられるときに上げる。つい生き急いじゃうけれど、「できるときにできることをする」というのを、とにかく長く続けていくのがいいと思っています。


2.「ちょっとずつ声を上げること」で社会は変えられる

Q:具体的に、どういう「声の上げ方」からはじめればいいと思いますか?

最初は、自分の抱えているモヤモヤについて、周りと話すだけでもいいと思います。そうすれば意外と、友達も同じことを感じているかもしれません。「今日のお昼なに食べる?」ってことと同じようなノリで、自分のアンテナにひっかかったことを話すのって、すごく大事な気がするんですよね。
「ちょっと話があるんだけど」とか言うと、相手も構えちゃうから、あくまで気軽に。私も会社に行って「おはようございます〜」くらいの温度感で「あのニュース見ました? 許せない」とか「Twitterで話題になってるあれ、絶対だめですよね!」とか、「あの法案、Twitterで盛り上がっていていい流れだと思う!」とか、ざっくばらんに話しています。


Q:社会で気になることについて、友達同士で話すだけでもプラスになるのでしょうか?

そう思います。政治や身体のことみたいにいままでタブーだった内容を、クラスで友達とあえてあっけらかんと話す。そうしたらその空気が連鎖して、「カジュアルに話せる雰囲気」が生まれる。それって、立派なプラスだと思います。

たとえばある高校では、数学や国語の授業みたいなノリで、人権教育に関する授業があるらしいんです。当たり前にそういう環境で生きていると、選挙のときでも友達とチーズフォンデュをつついたりしながら「今回、誰に入れる?」なんて話ができたりする。
決して特別なことではなく、好きなものや恋愛の話みたいな日常の延長線上に、政治の話が存在するわけです。そういう空気を増やしていく、ってことが大事だと思うんですよね。

最初は、一人でやるにはちょっと強さが必要かもしれないから、同じような気持ちの友達を見つけて、肩の力を抜いて、明るくやってみる。そんなふうにいろんなことをしゃべれる関係の友達が一人できるだけで、全然違うと思いますね。

学校が難しければ、外の人と交流して、そういうコミュニティをつくるのだっていい。環境が変われば、同じように関心を持っている人だってかならず見つかります。SNSで似た考えの人とつながることもできるし、意見を発信することで、周りにポジティブな連鎖を作るだけじゃなく、自分自身を支えてくれる気づきや出会いがあったりすると思うんですよね。私自身の実体験としても。

Q:自分にできる「ちょっとした声を上げること」でも、社会に影響は与えられますか?

もちろんです! たとえばいまの世の中では「女のくせに投票に行くなんて」「女なのに学校行くの?」とはもうあまり言われないじゃないですか。でもこの空気だって、女性の扱いに疑問を呈してきた“過去の小さな積み重ね”のおかげ。少し前の人たちが、バカにされたり怖い思いをしながらも、ちょっとずつ声を上げ続けてくれたからだと思うんです。
「声を上げて変わってきた」という事実が、歴史が、私たちの味方になり背中を押してくれているのだから、少しくらい「おかしい」と言われても大丈夫。本当におかしいのは私じゃなくて、世の中かもしれないって思えます。

先のことはわからないし、こないだの都知事選でも自分の一票にはなんの意味もなかったように思えたりするけれど……それでも、過去から見れば私たちはちょっとずつ前進しています。だから、この調子でOK! 頑張って意見を発信していきましょう。

声を上げる人たちはみんな強くてかっこよく見えるけれど、本当はみんなと同じ、不安になりながら、悩みながら、分からないこともたくさんありつつ自分なりに手探りで進んでいるんです。もちろん私もそう。「みんなも怖いんだ」って思えば、自分のこの不安も抱えつつ、できることをコツコツやっていける気がします。……っていう考え方を、私も最近ようやく会得してきました(笑)。


3. 誰がなにを語ったっていい。私たちの世代をつくるのは私たち

Q:いまの若い世代は、これからどんなことができる世代だと思いますか?

たちZ世代(90年代後半~2000年生まれ)は、完全な個人主義でも全体主義でもない。いうなれば、社会課題と自分を切り離さずに考えられる世代なんじゃないでしょうか。
自分の生活も楽しみたいし、世の中のためになることもしたい。そして、その2つが両立することを信じて歩める世代だと思うんです。

それを実現するにはまず、自分たちと上の世代を分断しないこと。時代ごとの価値観があって、時代ごとの正解があるんですよね。団塊の世代だったら「団結して経済を成長させていくぞ!」っていう勢いがあったわけだし、社会全体で共通した“幸せ”の概念がありました。それって、良い悪いじゃないと思うんです。

だから私たちも「昔の人たちが環境を配慮してくれなかった」「私たちのことを考えてくれなかった」じゃなくて「昔の世代がいたからいま私たちはこうして、こういうふうに物事と向き合えるようになったんだ」って、考えたい。でも、前の時代ではアップデートしきれてなかった所はある。だからこそ、それを前進させる令和を作れるように、次は私たちが新しいやり方を探っていく。そんな風に考えていきたいなと思っています。


Q:少しずつ自分の意見が持てるようになってきたら、どんなふうに示していけばいいですか?

まずは「高校生だから声を上げちゃだめ」「どうせ分からずに言ってるんだろう」みたいなレッテルを貼ってくる人や声は無視すること。いまは、誰がなにを語ったっていいし、そういうサンプルをとにかく増やしていく時代だと思います。
だから、周りに言われる「〇〇なのに」「〇〇だから」はスルーして、自由に声を上げていきましょう。そうやって上げた声を無下にしないように、私たち大人世代も盾となりメガホンとなれるよう頑張っていきたいと思っています。

それから、自分の意見を大人に示すこともすごく大事です。たとえば、好きなCMや商品があったら、感想や支持の気持ちをツイートしてみる。就活で女性役員の比率やCSR活動について質問してみる。そういう小さなアクションも立派な声です。大人は意外と生の声を見ていますし、気にもしています。「そういうところをチェックされているぞ」「会社やブランドの姿勢も選ばれているぞ」って、大人に宣言していくことがすごく大切だと思います。スウェーデンで環境活動をしている17歳のグレタさんなんて最たる例ですが、大人の襟を正せるのは、意外と10代だったりするんですよね。

自分のできることはすごくちっぽけだと感じるかもしれないけれど、一回で全てを変えようとせず、小さな声を積み重ねて、広く届けることが大切。そういう若い世代を見れば、大人たちもきっと変わっていくはずです。
私たちの世代をつくるのは、私たちなんですよね。身の回りのことから一緒に、こつこつ頑張っていこうぜ! って思っています。