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政治学者・中島岳志先生に高校生が「政治にまつわる素朴な疑問」をぶつけてみた!

3月28日(日)に代官山 蔦屋書店主催で行われた『自分ごとの政治学』(NHK出版)刊行記念 中島岳志×伊藤亜紗トークイベントに、学校総選挙からch FILESの高校生スタッフをご招待!イベントに登壇し、 ずっとモヤモヤしていた政治にまつわる疑問を中島先生にお答えいただきました!

NHK出版の「学びのきほん」シリーズとして刊行された政治学者・中島岳志先生による、自身初の政治の入門書『自分ごとの政治学』。政治の成り立ちから政治をどう捉えれば良いのかといったお話がまったく新しい視点で、わかりやすくまとめられています。

イベント前半は、政治学者・中島先生と美学者・伊藤先生による対談。中島先生の『自分ごとの政治学』を伊藤先生が、ご自身の専門分野からの視点で紐解いていかれました。イベント後半では、高校生たちが政治にまつわる素朴な疑問を中島先生にぶつけました。とてもわかりやすい回答に、「なるほど、そういうことか!」の連続。その一部をお届けします。 

1.興味はあっても何から始めればいいかわかりません!

ねいる(高2) 今高校2年生で、2ヶ月後に18歳になって選挙権がもらえるのがすごく楽しみで、いざ選挙に行くとなった時に何から知ればいいんだろう? と思って自分で色々調べてみたんですが、自分の検索ワードが「選挙 2021 東京 いつ」といったものばかりで、基本的なことから何も知らないんだなと気付かされました。私も周りの友だちもみんな興味はあるけど、どうやって情報を得ればいいのかわからないので、その辺り教えていただきたいです。

中島 そうですよね。まず2つのことをお伝えしたいなと思うんですが、選挙に行くことはもちろんとても大切な政治参加ではあるんですが、選挙に行くことだけが政治なわけではないんです。
先進国ではどんどん投票率が下がっていて、若者は上の世代から政治に対する問題意識が低いと説教されますが、それは、私たちの政治に対する意識が下がっているからではないと思っています。

僕は、投票に行っても政治は変わらないと思わせる仕組みができているからだと思うんです。今、政治は「新自由主義*」という考え方が世界的に強まってきています。これは、何もかも政府がサービスを行ってくれるのではなく、ちゃんとお金を払ってサービスを受けるようにしましょう、という考え方。例えば老後は無料でお世話するのではなく、老人ホームに入るお金はちゃんと自分で貯めておいてください、病院の医療費も国が負担するのではなく、自分でちゃんと払いましょう、というような。

*新自由主義:政府による個人や市場への介入は最低限とするべきという考え方。

まお(高2) それって麻生さんが言っていた「老後2000万円必要」ってやつですか?

中島 そう。老後は年金に頼ろうとせず、自分で貯めておいてよ、それができないのは貯めていなかった自分の責任でしょ、という考え。全部私たちに投げられていて、単純に政治ができる範囲が小さくなってくるんです。そうすると、私たちも選挙に行って投票したところで政治は変わらないな、という考えになりますよね。

皆さんが次に衆議院選挙に行くとしたら、「小選挙区制」での選挙になります。それは自分の住んでいる地域の選挙区から、たった1人しか当選しない、という仕組みです。でももし皆さんが国会議員になろうとして、小選挙区制で立候補したとしたら、もちろん当選したいですよね。少数者の意見って聞きますか?

全員 聞かないです!

中島 そう、聞かないんです。票にならないから。そうすると、立候補者が2人いたとしても2人とも少数者の意見は聞かず、多数派の意見を聞いた上で勝負をする。結局のところ、主張する内容は似てきます。そうなると、私たちからすると、「どちらに投票しても同じじゃん」となるんです。

全員 なるほど!

中島 私たちは主権者であるにもかかわらず、選挙から疎外されているんですね。それを説教して数字だけ変えても意味がないですし、選挙の在り方からきちんと変えた方がいいと僕は思っています。

もう一つは、何年かに一度の選挙に1票入れるだけで政治に参加している、とは言えないということ。今は政治に参加するには選挙しかない仕組みになっていますが、市や府の政治には身近なものがたくさんあります。
例えば1軒空き家があった場合に、それをみんなで使ってライブができる会場にすれば、世代を超えて交流できる場になるよね、などと考えることも重要な政治だと思うんです。

私はその方がよっぽど政治の領域が大きいと思っています。ただ、そういうことを話し合って決定して具体化していくものに参加するルートが必要です。日本にはそのルートがほとんど用意されていません。政治というのは選挙に行くことだけでなく、もっと広いんだという認識をみんなが持つことが大切かなと思います。

みわ(高2) 「政治に興味を持ちなさい」と大人は言うけど、それって私たちから手を伸ばさないと届かないところにあって、大人側から少しでも歩み寄ってくれたら入りやすいのに・・・、といつも感じているので、地域でそういうことをやってくれたら、もっと大人と密接に何かができるんじゃないかなと思います。

中島 私が北海道大学で法学部の学生たちに教えていた時に、政治に関わる場所が必要だなと思い、シャッター街になっている商店街に一緒にカフェを作ろうという取り組みをしました。それぞれが自分の使い方ができるような公共の場所を作ろう、と。これには若い方がすごく反応して集まってくれて、商店街の方も喜んでくださり、ここで交流が生まれたんです。私はこれが民主主義だと思っています。政治のハードルを上げすぎないことの方が大切なのかなと思います。


2.学生が立候補できないことも政治離れの原因なのでは?

もえ(高3) 私は、この本のタイトルにもあるように、「自分ごとの政治」を考えた時に、同世代のような学生が立候補できないことも、若者が政治から離れてしまう原因なのではないかな、と思うのですが、先生はどう思われますか?

中島 よくわかります。もちろん若い時代は政治に直面しないことが多いんです。結婚して子どもができた、二人とも働いているけど待機児童で子どもを預けられない、となると「政治は何やってんだ」となるんだけど、生きることに直結してくるのは、年齢が上がれば上がるほど大きい部分はあるのかな、という気はしています。でも、日本は被選挙権の年齢が高すぎるんです。

もえ ですよね! そう思います。

中島 アメリカでは18歳の市長が生まれたりもしています。

全員 えぇー!? そうなんですか!

中島 例えば地方の市議会議員などは「大選挙区制」と言って、結構な人数が通るので、一人か二人くらい10代の議員がいても私はいいと思っています。オーストリアでは31歳で首相になった人もいたりしますからね。
世界では18歳や20歳くらいから被選挙権が与えられているので、日本でも被選挙権の年齢を下げて、特に地方議会では若い方がもっと議員になりやすい方法を取って、お昼は学校に行きながら夜は議会に出る、というような兼業できる形にしたらいいと思っています。


3.野次ばかりの国会中継。あれ、意味あるの?

みわ 国会中継とか時々見ると、おじさんたちが野次を飛ばしてばかりいて、すごく嫌な気持ちになります。「人の話はちゃんと聞こう」というのは小学生の頃に習ったのに、どうして人の話を遮って、悪い雰囲気にしているんだろう? って。大人がこういう雰囲気にしているのも、若者が政治に対して暗い印象を持つ原因になっている気がするんですが。

中島 あれは議論をしているようには見えないですよね。

私は討論番組には一切出ないんです。議論というより、言い負かし合いをしているでしょ? 議論というのは、相手が言ったことについて深く考えて、なるほどなと思えば自分の意見を変える勇気を持っている人にしかできないものです。だけど国会中継などで見るのは、良い大人が相手に言い負かされまいとばかりしている姿。若い方からするとムカつく、と感じるのでしょうね。

まお ムカつく、というより、あんなことして楽しいのかな? って単純な疑問です。

中島 ただ一方で、極論と極論に行かないこともとても重要で、野次ができない社会というのも息苦しいんです。例えば以前、北海道で安倍元首相が街頭演説にやって来た時に、沿道から野次を飛ばした人が警察によって排除されたことが問題になったんですが、そうすると私たちは物も言えないのか、ということになります。野次というのは、権力を持っている人に対して、「それは違う」と訴える重要なメッセージでもあるんです。

ただ、野党は与党に野次を飛ばすことによって存在感を見せようとしていて、その関係がずっと続いて来て、パフォーマンスだというのが見え透いているのも嫌な感じにさせるのかもしれないですね。子どもの喧嘩みたいになってしまっているので、両方改めないといけないところはあるなと思います。


4.日本の首相はなぜ国民が選べないの?

ももこ(高3) 私はなぜ日本の首相は国民が決められないのか、というのがずっと疑問です。例えばアメリカであれば、国民がお祭りのように参加して大統領を決めていて、みんなが政治に参加しているイメージがあるのですが、日本はなぜ議員の方が首相を決めるんですか?

中島 アメリカと日本のどちらが正しい、ということはないんですが、私は比較的首相を国民が直接選ぶという選挙には慎重な方なんです。

全員 そうなんですか?

中島 なぜかと言うと、やっぱり僕たちも間違えるんです。お祭り騒ぎでウワァとなると、コントロールがきかなくなって、人気のある人に投票してしまったり、その人の見極めがつかなくなります。SNSでも、炎上して10日間くらい強烈なバッシングが続いて、サッと引いていく、というような現象がありますよね。そういった熱狂に侵されやすい時代に、一時の感情的な判断で決めるのは、総合的な判断ができなくなって危険だったりします。

だから、そういう熱狂からワンクッション置いたらどうですか、というのが、今の「間接民主制」という制度です。国民が国会議員を選んで、その人たちに冷静に決めてもらいましょう、という考え。どちらがいい、というわけではないんですが、私は熱狂に侵されやすい今の日本は、ちょっと怖いです。そういう状態で、独裁者のような人にコロッと騙されて投票してしまう、というリスクも大きいなと思います。

みわ そうか〜。熱狂までいくと怖いけど、もう少し熱は欲しいという気もするし…難しいですね。


中島先生、伊藤先生、ありがとうございました!

白川(NHK出版) 実はこの「学びのきほん」シリーズは皆さんのような高校生の方にも読んでいただきたいと思って立ち上げたので、是非いろんな本を読んでみていただきたいなと思います。ありがとうございました。


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あとがき 
高校生たちの素朴な疑問、いかがでしたか?今年は衆議院議員選挙がある年。 選挙権を持っている人も、持っていない人も、まずは自分の疑問を見つけることが政治を「自分ごと」にする第一歩です。ぜひ、『自分ごとの政治学』を読んで見つけてみてくださいね。
この一冊が、自分たちの未来がどうあってほしいか描くきっかけになればと思います!

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