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【後編】アクションを起こすハードルを乗り越えるには?― 『どんな性のあり方でも暮らしやすい社会のための作戦会議』

学校総選挙が1月19日に開催した「どんな性のあり方でも暮らしやすい社会のための作戦会議」。ゲストに一般社団法人fair代表理事・松岡宗嗣さんをお迎えして、学校総選挙が行ったアンケートの結果を踏まえ、約50名のメンバーと共に話し合いました。

【前編】はこちらからお読みいただけます。

後編では、イベントの進行役に多様な「個」のあり方を祝福し、二元論にとらわれない表現を追求するクリエイティブスタジオ・REINGの大谷さんを加え、会議の中で参加メンバーが話し合ったテーマと内容やアイデアについてご紹介していきます。皆さんもぜひご一緒に考えてみてください。

1.おすすめアクション。今日からできる?

こちらは、「今日からできるおすすめアクション」として推奨されている行動の一例です。皆さんは、今日からこの行動ができますか?

おすすめアクション

既に実行している! という人もいれば、まだ勇気が出ない、できない人もたくさんいると思います。

では、どうしたらアクションを起こしやすくなるのかについてアイデアを出し合いました。


 恋人がいる人との会話でも、相手の恋人と会ったことがない場合は「彼女/彼氏」ではなく性別を指定しない呼び方をする


「まだできない」という人は、どういう理由があるんだろう?

まだ会ってもいない人のことを「彼氏・彼女」ではなく「パートナー」という言葉で呼ぶ方が私にとっては馴れ馴れしい感じがして、抵抗があります。

人と違う言い方をして意識高い人と思われたくないという気持ちがあるんだと思います。

もちろん知識としてはわかるんですが、やっぱり友だちと話す時は「彼氏いるの?」とか「彼女いるの?」と話すし、ずっと以前から使ってきた当たり前のワードを切り替えるのが難しいなという気がします。


では、どうしたら実践できるようになる?アイデアを考えてみよう!

私は、まず自分が自分の彼氏・彼女を「恋人」と呼ぶようにしてみると、だんだん自分が慣れるようになってきました。

パートナーという言葉に抵抗がある人が多いと思うので、普通に「付き合ってる人いるの?」「好きな人いるの?」って聞いてくれたら、この人理解のある人なのかなと思ってカミングアウトしようという気持ちにもなります。

以前LGBTQのイベントに参加した時に、デンマークに留学していたという参加者が、デンマークで“彼氏/彼女”という言い方をした時に「どうして決めつけて言うの? もし私がレズビアンだったら、すごい失礼だよ」と言われて、そこから“パートナー”という言い方に変えたという話を聞いて、自分も無意識にそれをやっていたかもしれないと思い、“パートナー”や“恋人”という呼び方をするようになりました。
“パートナー”は横文字だから使いにくいところもあるかもしれないし、人によって何と呼ばれたいかは違うかもしれないので、一度“恋人”と言ってみて、その後相手に聞いてみるのもいいかなと思いました。

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他者のジェンダーやセクシュアリティを否定したり、噂を流したり傷付けるような発言・行動をしている場面に出会ったら勇気を出して注意してみる


「まだできない」という人は、どういう理由がある?

友人の友人にLGBTQの人がいると聞いて正直驚いてしまったんです。それを私に伝えた友人も「ヤバイね」という感じの言い方をしていて、そのとき私は何も言えなかったので、まだ自分の中で(注意することへの)ハードルは高いのかなと思いました。

どう注意すればいいのかがわからなくて自信がありません。

注意してあげたい気持ちはあるのですが、もしクラスでみんなが否定的な状況であれば、逆に自分も批判されるんじゃないかという恐怖心がまだあります。だから注意ができるような環境づくりを社会から変えていくことが大切なのかなと思います。

傷つけるような発言も、きっと悪意がない方が多いと思うんです。年齢が高い人たちほどこういったアンテナが低いなとも感じていて。だからこういう人たちにどうやって働きかけていくべきなのかなというのはわからずにいます。


一方で、「できる」という人には、こんな考えがありました。

いろんな考えがあっていいと思うんですが、相手を傷つけるような発言をしているなら、そこは人として注意しようと思います。

正解を言うというよりは、「自分はこう思うんですけどね」という感じでアイデアを提案したら、会話として相手も受け入れやすいのかなと思います。

傷つける発言をした人に何かを言うのはハードルが高いですが、言われた当事者の方に、後で話をして、その方が“自分は一人じゃない”と思えるだけでも、大きいことなのかなと思います。

口で説明することはすごく難しいし知識も必要だと思うので、私は人に何かを伝えたい時は、アニメや映画、本などのコンテンツで「これ面白いから見てみて」と言って勧めるようにしています。松岡宗嗣さんの本も参考になりますし、最近ならNetflixの「セックス・エデュケーション」というドラマが面白いし勉強になります。

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2. 参加者から松岡宗嗣さんへ質問(2)

Q. カミングアウトされた時に本当に受け入れられるのか不安。どう考えたらいい?

ともやさん 良くないなとは思うのですが、やはり心の中で「男だから」「女だから」と思ってしまう自分がいます。実際に誰かにカミングアウトされた時に、本当に受け入れられるのかなという気持ちがあるのですが、これはどう考えたらいいのでしょうか?

松岡 逆に私は「ゲイの友だちがいるから理解できますよ」と言われた時にモヤっとしちゃったことがあるんです。例えば自分に女性の友だちがいても「女性のことが理解できます」とは言わないですよね。それと同じで、LGBTQといっても人によってまったく違いますから、そもそも誰もが完全にお互いのことを”理解”はできないと思うんです。でも同じ学校や職場でお互い気持ちよく生活していくために、お互いを尊重し合いながらコミュニケーションを取ることはできると思うので、自分の中に考え方が違うなという気持ちや違和感があったとしても、それを一概に否定する必要はないんじゃないかなと思います。

今おっしゃっていただいたとおり、自分も心のどこかで男らしくあるべきだ、というように考えてしまっているのかもしれないというのは大事な気付きだと思います。「自分がこうありたい」と思う気持ちを「こうあるべきだ」と他者に押し付けるのは違うなということは理解できると思うんです。そのことがまず入り口としては大事なんじゃないかなと思います。

Q. LGBTQの人に対するアファーマティブアクションの現状について、松岡さんの考えは?

たくやさん LGBTQの人たちに対するアファーマティブアクション(積極的に差別を是正するための取り組み)の現状について、松岡さんはどう考えられますか?

松岡 例えばジェンダーの問題であれば、女性の管理職の割合が低い時に、何割は女性にしましょうという措置を取ることをアファーマティブアクションといったりしますが、日本ではLGBTQの人に対するアクションはほとんど行われていません。その前段階として、LGBTQの人がどういうことに困っていて、どういうところに格差があるかという実態が伝わっていないんです

例えばトランスジェンダーの人は、そうではない人に比べて、非正規雇用の割合が高いといった調査結果があります。その背景には直接的な差別だけでなく、いじめ被害や社会からスティグマ(負の烙印)を押され続けることで、「どうせ学校に行ってもその先の人生はない」と思ってしまったり、キャリアを想像できなかったりします。だから、会社の採用の際に、同じような能力の人が並んでいるのであれば、できるだけマイノリティの方を採用するとか、何割はそういった人たちに割り当てるといった取り組みが必要なのではないかと思っています。

ただ日本で難しいなと思うのは、こういうアクションをすると、「それって特別扱いでズルじゃない?」という声が必ず上がります。その気持ちはすごくわかるのですが、その前提の社会の不平等や格差の現状を共有する必要があるかなと思っています。

Q. 子どもたちに向けた教育制度について

りょうがさん 今僕は高校生なのですが、こうした性的マイノリティの方へのいじめの問題って、まだみんなに知識などのない小学生の頃の方が起きやすいのかなという気がしています。子どもたちに向けた教育制度などはどう考えられていますか?

松岡 日本の学校教育の中ではまだまだ性の多様性に関するカリキュラムは取り入れられていなくて、現場の意識や努力次第というのが現状です。私はできるだけ小さい頃から性の多様性について教えて欲しいと思っています。それは必ずしも「LGBTQ」という言葉を教えなくてもよくて、大事なのは、性のあり方は多様だ、ということを小さい頃から当たり前のように実感することが大事なのかなと思っています。

人は生まれて、例えば男の子ならブルーのおくるみをプレゼントされたり、バレンタインは女の子が男の子にチョコレートをあげなきゃいけないとか、メディアや家族・友人との会話など世の中のさまざまな場面でジェンダーやセクシュアリティの「規範」を学び取っていくんです。だから日々の生活の中で、本当に小さい頃から、性にはいろんなあり方があって素敵だよね、ということをポジティブに伝えていくことが大切なのかなと思っています。

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3. ゲストの松岡宗嗣さんからメッセージ


松岡
 今日はいい意見がたくさんあって、私もとても学びになりました。“パートナー”という言葉に意識が高い感じがするというのはとてもわかるなと思うのですが、言葉というのはたかが言葉ですが、されど言葉です。例えば昔は保育士さんのことを「保母さん」と呼んでいて、職業とジェンダーも固定的なイメージがありました。最初は違和感があるかもしれませんが、使っていくうちにそれがだんだんデフォルトになっていくと思うので、まずは「自分の彼氏や彼女のことをパートナーと言い換えていってみる」というのはすごく良い意見だなと思いました。

注意ができるかに関しても、そこに当事者の方がいるとわかっていたら後からケアして「大丈夫だった?」と聞くというのもとても良い対応だと思います。個人的にも経験があって、すごく嬉しかったのは、LGBTQを馬鹿にして笑いが起きている時に、“周りに合わせずに笑わない”という姿勢を取ること。あの人は笑っていなかったな、ということを当事者は見ていたりするんです。あとはひどい笑いが起きている時には、話をごまかしたり、水をこぼしたり、話を変えてしまうと言うのもひとつの方法かなと思います。

小さなステップからで大丈夫なので、自分が日頃見ているアニメやマンガや小説や映画で、LGBTQの登場人物が出ているものを「これ良かったよ」と発信する、自分の好きなものを好きと語るだけでも、当事者にとって“この人は性の多様性をポジティブに捉えているんだ”というシグナルになったりするかもしれません。そういうことは日頃の何気ない言葉遣いやコミュニケーションの中で伝わるので、ぜひ今日から一つひとつ実践していただければ嬉しいなと思います。


応用編:こんな時、あなたならどうする?

最後に、学校総選挙から「応用編」です。
あなたの身近に、トランスジェンダー男性であることを誰にもカミングアウトしていない「Aさん」がいるとします。誰がAさんなのか、あなたにはわかりません。

もし、あなたが普段接する人たちの中にAさんがいたら、どんな行動をとれるでしょうか?

0119【学校総選挙】イベント投影画面_Aさんの困りごと

参加メンバーからは、こんな考えが上がりました。

もしAさんが自分のクラスにいた場合、本当のAさんを受け止めてくれたり理解してくれる人に相談したくなるかなと思いました。なので、たとえば普段から彼氏・彼女ではなくパートナーと呼んだりすると、Aさんから「理解してもらえそうな人だな」と思ってもらえるんじゃないかなと思います。

私の学校では最近、女子がスラックスを選べるようになったんですけど、スラックスを選びたいという声が上がったから変わったそうです。先生によっては理解が遅れている先生もいるなと感じることがあるので、もし周りにLGBTQの人がいるかもなと思ったら制服みたいに変わった方がいいことは先生に訴えるのがいいと思います。本人と直接関わって何かするわけではないけど、大きな組織の上にいる人に訴えていくっていうのも大事なことなのかなと思いました。


また、普段からこのテーマに取り組んでいるREING大谷さんの考えも聞かせていただきました。

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大谷(REING) 個人的にできることと組織や集団として出来ることの2つがあると思っていて。個人的にできることだと、たとえば二人で話をするタイミングがある時に「何か困ってることある?」と聞いて、解決策を一緒に考えていくことはできると思います。これって今回のテーマに限らずできることで、普段から困っていることや解決したいことを話しやすい空気を作るということが個人的にできることだと思います。
もう一つ集団としてできることとしては、直接個人にアプローチしなくても、学校など組織に対して、「研修や勉強会をやりませんか?」という提案をして動いてみると、同じような考えを持っている人が見つかったりもするかなと思います。


いかがでしたか? 作戦会議で出たアイデアは今日から実践できるものばかり。ぜひ皆さんも一歩踏み出してみましょう!
皆さん、ご参加ありがとうございました!

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