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「現代詩手帖」2022年12月号現代詩年鑑2023掲載「深すぎた青」

ぼくはその日 青になった
空がみえる
雲がところどころ浮いていて
海がどこまでも広がっている
仰向けになってなにか形のないものに
抱かれているようだ
遠くで鷗が鳴いている
潮のかおりが全身を包む
耳のところまで生暖かい海水がきている
すこし目線をおろせば
浮いた身体が透明と暗がりのはざまの色に
隠れたり現れたり
羊水みたく波に運ばれ
目をつむれば水が小さくぶつかる音
外界が遠のいていく
どこまでも放り出されていく
もうこうしていられるのも長くない
このまま鮫かなにかに食べられて粉々になっていく身体を
まだすこし残る意識のなかみつめながら
深すぎて黒に変貌した海へ沈んでいく
湧き上がる泡とともに
光へ向かってあがっていく臓器たちの
あまりの美しさにぼくは最後まで
目をつぶれないでいる
ぼくに付随する色彩が 生きる理由が
安らかに青へと還っていく
冷たくも不穏でもない
ほとんど体温と同じくらいの暖かさにあこがれている
もうなにも聞こえず なにもみえない
ただただどこまでも高く沈んでいき
ぼくらの故郷へ向かっていく
魚のひれがどこかからの光にひらめくように
一瞬の命の息吹のような何者かがしずかに踊り
ぼくをさそっている こっちでいいのだと
そうしてその日 ぼくは青になり
君のことを思いながら
青く 青く 漂い続けている