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SIX WORDS の楽しみ (1)

 2010年に『SIX WORDS たった6語の物語』という本を訳したあと、その翌年に英語学習紙 Japan Times ST(現・Japan Times alpha)で six words に関する連載記事を執筆していたことがあります。10年経ったのを機に、そのとき書いたことをまとめて再構成し、ここで不定期に紹介することにしました。全部で6、7回程度になると思います。堅苦しい内容ではないので、気軽に読んでみてください。
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 英単語たった6語で人生を語る six words。俳句などにも似た味わいのわずか6語のなかに、老若男女、さまざまな人たちの喜怒哀楽がたっぷり詰まっています。この six words を最初に作ったのはヘミングウェイだと言われています。6語で物語を作ってみろと酒場で求められたときに、その場でこんなふうに書いたとか。

  For sale: baby shoes, never worn.

「赤ちゃんの靴、売ります。未使用」。たったこれだけのことばから、さまざまな人生模様が垣間見えます。赤ちゃんはどうなったのか? 親たちはどうなったのか? 悲しい話を連想しがちですが、ひょっとしたら、逆にとても幸福な人生? 想像は際限なくひろがっていく――それが six words の魅力です。
 文法の制約があまりなく、気軽に作れるsix words は語学の勉強にも適していますが、入念に選ばれた6語の背後にあるひとりひとりの作者の人生に思いをはせていると、勉強のことなどすっかり忘れて読みふけってしまうはずです。
 たとえば、こんな six words があります。

  Cursed with cancer. Blessed with friends.

「癌に苦しめられ、友に恵まれる」。作者はどんな人だと思いますか? しっかり者のおばあちゃんの元気な姿を想像した人が多いでしょうが、実は甲状腺癌を克服した9歳の少女だそうです。
 たった6語のなかに、思いがけない人生模様が隠れているのが six words の魅力ですが、聡明なおばあちゃんの物語を想像した人たちも、もちろん、そのことを恥じる必要などありません。それよりむしろ、さまざまな解釈が可能なこの短詩形式の豊かな味わいを感じとってもらえるとうれしいです。想像の翼をひろげて楽しみながら読むことを、書き手たちも望んでいるかもしれません。
 では、こんなのはどうでしょうか。

  Purity ring still rests on finger.

 purity ringは結婚まで純潔を守ることを誓う指輪で、最近はこれをつけている若者が増えはじめているとか。作者の性別はわからないので、これもさまざまな物語が考えられます。強い決意か、大いなる失望か、ひょっとしてもう誓いを破ったのか。どれかに決めつけないことにしましょう。
 以前これに対する訳文をツイッターで募ったところ、おもしろい投稿がいくつもありました。「私はこの指輪とともにあの人を待っているの」とか、「純潔リングが外せずじまい」 とか。中には、「いまもなお 指を飾るは 乙女の環」のように五七五にそろえたものや、「あの人はまだ触れてこない。意気地なし!」のような豪快な超訳もあり、びっくりしたものです。
 わたしの訳は「純潔を誓うリングがいまも指に」でした。
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 書籍『SIX-WORDS たった6語の物語』は、残念ながら現在では入手困難の状態です(下に表示されているのは中古価格)。ツイッターでは @sixwordsjp のアカウントで1日ひとつを紹介しているので、よかったらご覧ください。


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