恋文を読む人|掌編小説(#春ピリカグランプリ2023)
「あの人、ラブレター読んでる」
オープンテラスのカフェで、向かいに座っている妻が突然言い出した。僕の肩越しに誰かを見ているようだ。
「あー振り向いちゃダメ! 気付かれるから!」
90度動かした首を再び正面――妻の方へと向ける。
「なんでラブレターって分かるの?」
「人差し指でこう……文字をなぞるように読んでるの。横にね。私も昔、ああいう風に読んでたから」
「ラブレターを?」
「そう」
一瞬、「いつ、誰からもらったんだ?」と嫉妬の念に駆られたが、とりあえず耐える