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【インタビュー】「身体が不自由でも、自由に働ける社会へ」 代表取締役 島田真太郎

2023年12月、重度の肢体障がい者も対象とした就労継続支援B型事業所「テクノベース」が開設しました。
開設したのは、アシスティブテクノロジーを提供するテクノツール株式会社の代表として、これまでにも多くの肢体障がいがある方と接してきた代表・島田。テクノロジーでのサポートにとどまらず、実際に「就労の場」を作り出す意味、その思いなどを聞きました。

島田 真太郎
テクノベース株式会社 代表取締役
2012年4月にテクノツール株式会社入社。Nintendo Switch公式の障がい者向けコントローラー「Flex Controller」をはじめとするアシスティブ・テクノロジーの開発や市場開拓に携わる。2021年9月にテクノツール株式会社代表取締役就任。「本当の可能性に、アクセスする。」をコンセプトに、障がい当事者や他分野の専門家との共創とテクノロジーの活用により、障がい者の社会参加を促進するプロジェクトを推進している。その成果の一つとして、2023年12月に就労継続支援B型事業所「テクノベース」を開設。

01:テクノベースをなぜ作ろうと思い、どのように準備を進めてこられましたか?

テクノベースを立ち上げようと決めたのは、2022年の春頃です。1994年創業のテクノツール株式会社という、肢体不自由な方の活動をサポートするアシスティブテクノロジーを提供する会社を運営しているのですが、「ツールを提供する」ところにとどまらない活動がしたいと思うようになりました。ツールを通してサポートしていくだけでは、社会の一員として当たり前に参加していくには足りない、と感じるようになっていたからです。「福祉の外、つまり社会とつながることができる場」を自分たちで作りたい。そう考えた時に、「当たり前に働くこと」は今の社会にとってとても大きな意味を持つと考え、就労支援事業を立ち上げることを決めました。

準備段階の最初のハードルは、サービス管理責任者の資格を持つ人材を得ることでした。特に「重度の肢体不自由者も働けるような環境を」という事業所を作っていくには、通常とは少し違う、一緒にチャレンジをしてくれる仲間を見つける必要がありました。話をしている中で、2022年の夏頃に石田さんを紹介して頂き、何度かお会いするうちにこの方となら、と2023年1月から本格的に立ち上げはじめました。

その後たまたまのご縁があり、株式会社LITALICOと共同出資でテクノベース株式会社を設立しました。私たちは就労支援事業の知識が全くない中、開設に向けてLITALICOから佐藤さんと青江さんというお二人の出向も含めサポートしてくださることになり、本当に心強かったです。そこから、たくさんのサポートを受けながら、2023年12月に開設へと辿り着くことができました。

02:テクノベースができることで、これからどんな出会いや体験を広げていきたいと思っていますか?

周囲も本人も働くことを諦めている全ての人が、「本当はこんなことができる」ということを知ってもらいたい。働けること、何かできることが価値だということではなく、障がい者というくくりでしか見られていなかった人たちの、個性や可能性をちゃんと見てもらえる場所にしていきたいですね。

就労支援というかたちをまずは取っていますが、「支援場所」というよりも「誰もが当たり前に働けること」を目指しています。ゆくゆくは、就労支援ではない「当たり前」のかたちを模索したいと思っています。

ただ、その一方で今解決すべき課題もあります。例えば、医療的ケアの必要な方の受け入れをどうするか。現在の制度では、在宅就労中はヘルパーさんを雇えないんです。ただ、行政にきちんと説明すれば特例が認められているケースはあるので、まずはテクノベースでも実例を少しずつ積み上げていき、最終的には、制度自体を変えることを目指していきたいです。段階を踏みながら、テクノベースに集まってくれた人たちと一緒に話をして、働きやすい環境をひとつずつ作り上げていきたいと思っています。

03:テクノベースで大切にしていることを教えてください。

やはり、一人ひとりの働きやすい環境を整えて、「その人のちからが発揮できる場所にする」というのが一番大切にしていきたいことです。例えば、テクノツールのスタッフである干場さん、本間さんを見ていても、得意なことも、本人が求める働き方も違います。「それぞれにとって“いい”仕事」があってこそ、その人の可能性を引き出せると感じています。

その「個性と可能性」を、想像や言葉ではなく、ひとつの画として見てもらえること。そして、それを社会に対して発信していける場所であることを目指していきます。

04:テクノベースの特徴は何ですか?

まずハード面で、一般的なB型支援事業所とは違い、オフィスを模した空間ではありません。重度の肢体不自由な方にとっては、一般的なデスクやチェアは意味をなさないからです。来る方に応じて、昇降式のテーブルや寝そべった体勢に対応できるもの等を取り入れられる空間を用意しています。また、通勤の負担も減らすため、多くの方はテレワークで完結予定なので、人も少ないです。

テクノベースの空間自体は、「見てもらう」場所としても意識しています。大きなディスプレイを用意しており、見学にきてくださった企業の方達に、働く様子が伝わる動画やバーチャルオフィスツールでのやりとりを見ていただいたり、土日は、グループであるテクノツールのイベントや、当事者団体に活用していただくことも考えています。

ソフト面では、リモートでも「一緒に働いている」という実感に繋がるように、バーチャルオフィスやチャットツールを活用します。テレワークだと身体的な負担は少ない反面、精神面でのケアは丁寧にする必要があると思っています。そういった点でも、LITALICOでの豊富な経験を持つメンバーがいるのは、テクノベースの大きな強みです。

また、働くためだけに集まるのではなく、単純に「夢中になって楽しめる体験」も提供していきたいと考えています。テクノツールでは、レーシングシミュレータやゲームも扱っているので、事業としての規則は守りながら、仕事にとどまらずやってみたいことに挑戦できる、わくわくに繋がる場所でありたいと思います。

05:テクノベースではどんな仕事を生んでいきたいと思っていますか?

「社会貢献になるから」「安いから」発注するのではなく、「テクノベースの人に作ってほしい」と思ってもらえるような仕事を生み出していきたいです。ここに通う人たちは確かに身体的にはシビアで働ける時間も短いですが、それがデメリットにならない、むしろ私たちだからこそ受けられる「個性や可能性を生かせる仕事」を見つけていく。そして、そういった目線でお付き合いを考えてくださる企業との繋がりを増やしていくのが今後の私の目指していくところです。

06:テクノベースは、社会にどんな影響を与えられると思いますか?

本当の可能性、本当の個性を知ってほしいということを繰り返していますが、これは障がいのある方に対してだけではありません。年齢や性別、働き方といったカテゴライズによって、個性や可能性をないがしろにしている窮屈さがある気がします。同じ年齢でも、同じ性別でも、同じ会社で働いていても、本当はあらゆることが一人ひとりで違うはずです。その違いを、本人も含めて、どのくらい許容できているのかなと。複雑な連鎖によってそういう社会が形成されていると思うので、その認知構造に、少しでも影響を与えられるんじゃないかと模索しています。

テクノベースが訴えかけたい「当事者」は、「全員」なんです。

一般的な障がいの有無にかかわらず、生きづらさや窮屈さを感じている人に何か感じ取ってもらえる発信もしていきたい。大きな話になりますが、テクノベースでは「欲張りに働く」ことを目指しているので、目の前の方が生き生きと働ける環境を整えることも、より大きな社会への働きかけも、私自身欲張りに目指していきたいと思います。

「重度の肢体不自由者がこんなに自由に働いている」ということをきっかけに、あらゆる人に、自分の本当の個性やそれを生かせる環境に思いを巡らせてもらえたら嬉しいですね。