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2024/3/19 矢の進み方

「お前には悪いし残念だけど、それって正直左遷だよね」

4月からの異動辞令が先日発表された。
部の変更の関係もあり例年になく異動が多いとされていた今年。
自分ももれなくその対象者の1人となった。

社会人1年目が終わっての異動。
何なら環境を変えたくて自ら祈ってもいた異動。
それでも発表直後から数日が経ち、選択肢が死ぬか辞めるかの2択にすらなってしまった。
なぜ異動したいのか、どういうキャリアを歩みたいのか、は人一倍相談してきたはずだった。

「なんかあったら相談してね!いつでも大丈夫だよ!」

そんな社交辞令の言葉にでも、すがる様な思いで連絡した。失礼がないように何度も添削したメールを送り、有給を使って本社の先輩に会いに行った12月。
「大丈夫だよ、できてない子もいるしそんなに心配しなくていいよ!」「もうちょっとコミュニケーション取ったり社内営業頑張ってみるとかも大事だよ!」
話してるうちに、あぁ時間を無駄にしたなと後悔した。励まし半分、そんなことで来るなよ感半分。
できてたらやってる、無策でここに来るわけないだろ、と生意気ながら憤りすら生まれた。
尊敬していた先輩は所詮壁当てにしかならなかった。
よくも悪くも人が多い会社。
他の先輩とも話す機会をいただいた。
「お前の悩み聞いたよ、正直あるよな配属ガチャ。俺らもサポートできることがあったらするよ。」
人には具体性を求めるのに、自分たちは抽象的な解答で返すのが”大人”なんだなとあらためて学ぶにはいい機会となった。

営業職だからこそ、早く自立したいからこそ、経験を積みたいと思っていた1年目。言われるがまま使われただ時間を溶かした1年目。その環境を変えたくて異動したかった1年目。

そしてその異動先が今よりも時間を無駄にするとわかった辞令。会社が事業を撤退しつつあるエリアへの辞令。2年目が、キャリアが終わったと考えざるを得ない辞令。

新卒のファーストキャリアが大事なことは多くの人がわかっていると思う。少なくとも今の会社の優秀な同期達は。20代前半の体力があるうちに、学べる環境で学べる時期に成長しておくことの重要さとか、それを共有し高め合える仲間と関係を築けることの重要さとか。
少なくとも自分の価値観はそうだった。
1年目から数字を上げられる同期。重点エリアに異動になった同期。部を超えて支え合う仲間と交流がある同期。
その環境がただただ心から羨ましい。
意味のある仕事がしたい。意味のあった人生を送りたい。

約1年、一緒に働いた人たちのほとんどが異動となり、また3月末で退職される方もいたため、ダーツとカラオケが併設されたお店で送別会が開かれた。

乾杯してすぐ始まったダーツ大会。ルールを教えて貰いつつ、あまり経験のない自分は「真ん中」だけを狙って矢を放った。運良く当たったり、先輩の忖度もあり最下位にはならなかったが、問題はその矢の進み方だ。最初はただ中心を目指して…しかしゲームが進むに連れて、狙う場所や投げ方に工夫が必要となる。
徐々に酔いが回るとその矢の軌道は”ブレブレ”でそれが如何にも自分の人生の様に思えた。何かに向かおうとすると不恰好で、そしてその軌道は誉められたものでもなければ、狙いどおりの場所に当たらない鈍矢。何なら的にすら刺さらない。ただ最初だけたまたま運が良かっただけで”実力はない”。投げた矢を後ろから見てこんなこと思うと生憎楽しめたものではない。「あれ、お前やっぱ下手か?笑」という先輩の嘲笑にもすいません笑と返してゲームを終えた。最後に優勝したのは一番上の上司で、彼はパーフェクトゲームで他を圧倒した。ハイボールを流し込みつつ、狙い澄ました場所に当てる彼の姿。迷いのない研ぎ澄まされた軌道。人生経験があまりにも桁違い。希望とか頑張ろうとかよりも諦めの感情を抱くには十分過ぎるほどの差。

退職される先輩もゲームに参加し矢を投じていた。彼女も初心者だったが、振りかぶられ飛んだ矢は勢いよく刺さった。狙わない潔さ、思い切りの良さ。その気持ちがないと転職なんてできないのかもな。自分の道を駆け抜けていくみたいで彼女も格好よかった。

予定より1時間押しで解散した後、数人での2次会にも声をかけていただいた。別の部署の先輩も合流し今回の異動についての話になった。
「やっぱり新卒組は守られてるよ。」
「中途舐めんな!」「今回昇格しなかったら…」
と少しだけ先輩達の本音が聞けて嬉しかった。
そんな時、栄転だと思っていた先輩が異動に対して愚痴を溢した。「俺異動なのか、昇格じゃないのか」と。それに対し隣にいたほぼ初対面の先輩がこう言っていた。「何言ってんすか、期待されてるんですよ!」そして追加で同じく異動となる自分に冒頭の言葉を投げかけた。

「お前には悪いし残念だけど、それ(自分の異動先)って正直左遷だよね」

薄々気づいてはいたけど知らない振りをしていたことに対して、真っ直ぐ刺されて”そうっすよね”と苦笑いしかできなかった。本音が垣間見えた時間の本音。彼の矢も経験値で研ぎ澄まされていて、綺麗に飛んできた。
終電を言い訳に逃げる様に失礼させてもらった。

3月20日、ちょうど1年前に学生生活を終えた日。
この1年も本当にあっという間だった。
まさに「光陰矢の如し」
入社時に投げた矢は的には届かず、急降下を続けている。
足掻く様にブレながら飛んでいたがより進みが速くなった気もする。
もし人間にも安全装置があるのならまわりに迷惑をかける前に自爆するのだろうか。

成功という的を見ながら落ちていくのはやっぱり悔しい。
パスタみたいに選べたり、ウーロンハイみたいに何度も頼めたりしたらいいのになと思う。
できることなら正味、もう一周。

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