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トマティート:Tomatito "Spain"

今年になって、久しぶりにトマティートを聴いた。ホセ・メルセの新しいアルバムに参加していたのだ。

ホセ・メルセが67歳、トマティートが 64歳、まったく歳を感じさせない。最近、二人の共演を多くみかける。

二人ともフラメンコの大御所でありながら、最近のポピュラー音楽の要素をうまく取り入れて二人ならではのちょっと新しい感覚の音楽が作り出されていると思う。

とても気に入ってしまって最近よく聴いている。


トマティートを初めて聴いたのは、2000年にリリースのジャズピアニストのミシェル・カミロとの共演盤、"Spain." だったと思う。

チック・コリアの名曲 "Spain" を 3分ちょいの "intro" と合わせて聴かせる。"Spain"は多くのミュージシャンが演奏しているが、これはまた素晴らしい演奏だ。

ピアノとギターのデュオというと、ビル・エヴァンスとジム・ホールの "Under Current" のような名盤もあるがそれほど多くはないと思う。そんな中でとジャズ・ピアノとフラメンコ・ギターの名手のデュオというのは珍しいのではないだろうか。3曲目の "Besame Mucho" や5曲目の "Two Much Love Theme" のようにお互いに呟きあうような曲もいい。よりフラメンコ寄りの 4曲目 "A Mi Nino Jose"や 6曲目 Para Troilo Y Salgan", 8曲目の "Aire De Tango"もいい。

7曲目の La Vacilonaも気に入っている。2003年のライブ動画があったのでそちらを貼っておこう。

トマティートのギターの音色は甘く柔らかい。和音をかき鳴らすときは軽めで押しつけがましいところがない。全体的にとてもソフィスティケートされた感がある。だから、ちょっと私の好みの中心からはずれているのだが、ミシェル・カミロのしなやかでリリカルなスタイルと息がぴったりあって、自然なアンサンブルとリズムとメロディーのやりとりが楽しく聴ける。

お互いに相手の音をよく聴いて演奏しているように感じ、気持ちよく聴ける。

やはりミシェル・カミロとはよく合うのだろう、その後2006年ににも続編 "Spain Again" というアルバムも出しているし、最近でもステージで共演することも多いようで、動画でいくらか上がっている。たとえば、アストル・ピアソラの "Libertango" の演奏も気に入っている。


翌2001年のソロ名義の "Paseo De Los Castanos" もよく聴いた。もしかしたら、こちらを先に聴いて素晴らしかったのでミシェル・カミロとの "Spain" も買い求めたのかもしれない。

1曲目の "Pa La Pimpi" の女性の歌い手の歌声から引き込まれる。ギターのソロもいいし変化のある展開も印象的で、この曲もよく聴いた。

ミシェル・カミロとの Spain に収録されている曲も再演されているが、5曲目の "La Vacilons" は、このアルバムではジョージ・ベンソンとの共演だ。ただ、どちらかというと、ミシェル・カミロとの録音のほうを推す。

今日、これを書きながらいろいろ聴き直していたら、2019年にリリースされたロドリーゴのアランフェス協奏曲を見つけた。まことに迂闊なことに知らなかった。


トマティートは、Wikipedia によれば若い頃に希代の歌い手カマロン・デ・ラ・イスラのギター伴奏をしていたということだがこちらも迂闊なことに知らなかった。カマロン・デ・ラ・イスラといえばパコ・デ・ルシア、私の浅い知識と印象ではそれが全てだったからだろう(*1)。

2017年にホセ・メルセとトマティートの共演でカマロン・デ・イスラへのトリビュートの演奏をしている。


2018年のアルバム、"De Verdad" もなかなか聴かせる。1曲目の "Jerez - Rumba" は冒頭にYouTubeリンクで紹介した曲だ。


さらに冒頭にあげた "Tango Cosas Que Contarte"は若手の女性ミュージシャン Mala Rodriguez (マラ・ロドリゲス)を迎えての素晴らしい曲だが、若手ミュージシャンとの共演も積極的でそんなところも好印象だ。

たとえば、1989年生まれのPablo AlboranとのライブがYouTubeに上がっていた。


最近になってまたフラメンコの要素を取り入れたダンスミュージックなど、新しい動きもあるようだ(*2)。

大衆は気まぐれだ。伝統に深く根ざしつつワールドミュージックやクロスオーバーの流行り廃りの時代を生きてきたこの二人ならではの音楽がこれからも生まれて次の世代や次の次の世代に受け継がれていくだろう、そんな予感でいっぱいだ。



■注記

(*1) 1988年のアルバム、ゴールデンヒットも全曲、パコ・デ・ルシアとの共演だ。このアルバムはLPでよく聴いた。

聴くべし。

二人の迫力のライブ演奏も動画で上がっていた。最後がちょっと尻切れトンボになっているが、十分に楽しめることだろう。


(*2) たとえば、アルメニア生まれのフラメンコギタリスト、Vahagn Turgutyan(バハグニ・トゥルグティアン)とサンフランシスコ出身のソングライター兼プロデューサーのRyan Merchant(ライアン・マーチャント)によるプロジェクト、LAダンスシーンの、ダンス+フラメンコで Dancemencoなど。

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