見出し画像

人生100年時代:杉田敏「現代ビジネス英語」

「それではご一緒に勉強して参りましょう」

冒頭のこの名文句が毎回の励みになっていた杉田敏先生の NHK ラジオの講座「実践ビジネス英語」がついに先月末で終了してしまった。前身の番組を含めて 33 年にわたって続き、NHKの語学講座での最長寿ということだし、ファンも多かったせいか、新聞やあちこちのメディアでもこの 2 - 3 か月の間、取り上げられていたので目にした人も多かったことだろう。もう一緒に勉強することはかなわないのか。杉田ロス。

今年の流行語大賞の候補に「杉田ロス」というのが上がるのではないだろうか。

しかし、楽しみに聞いていた放送は終了したけれど、「杉田敏の現代ビジネス英語」というタイトルで、季刊のムック本にてNY新シリーズがスタートしたので、さっそく入手してスタートしている。本を買うと音声を、PC  ならMP3 でダウンロードできる。1 レッスンはこれまでと同じ5 ヴィニェットで構成され、6 回目が「通しで聞いてみましょう」とクイズで復習、となっている。つまり、これまでどおり 2 日で 1 ヴィニェットをこなして 1 週間に1 日休みとすると、2 週間で 1 レッスンとなる。

各レッスンで取り上げられるテーマは最新のビジネスのテーマで、しばしば日本で話題になる半年前から 1 年前先取りしていることもある。2021年春号も、DE & I (Diversity, Equity, Inclusion)、名前に潜む差別意識、COVID-19 による new normal、次世代食料、がテーマとして取り上げられている。

画像1


思えば、このプログラムとの出会いが私の会社人生を大きく変えて来たと言ってもよいだろう。そのことは前にも書いた。

いまだに喋りも聞き取りも十分ではないが、かれこれ20年続けてきて、いちおう、海外の同僚やお客様、サプライヤ様とも会話をし、時には説得しバトルして思う方向に動かす、ということもできるようになった。電話やWeb会議も普通にこなせる。

電話の応対ができるようになって、まず1ステップ、夢の中で英語でしゃべることがあってさらに 1 ステップ、英語で怒ることができてもう 1 ステップ、と、まぁまぁ未熟ながらも年々、少しづつは上達はして来たように思う。

ドイツやフィンランドに中国、フランスやアメリカの友人も出来た。昨日もフィンランドの友人 Keijo Salmivaara と深夜23時(日本時間、先方は夕方の17時である)から ZOOM を通じて飲みながらたわいもない話で盛り上がっていた。

とはいえ、まだまだ初心者レベル、去年から、このNHK語学教室に加えてスマートフォンのアプリで会話の中での発話の練習を毎日15分弱くらい。いつも思うが案外簡単な一言がすっと出てこない。これは辛抱強く練習するしかない。他には、note で度々書いているが、英語の本を硬軟取り混ぜて年間12冊を読むようにしていて、これは、もう10年ちょいか、なんとか続いている。

杉田先生は、語彙を増やすために有効な手段として、英字新聞を毎日読むことを推奨されているが、そこまでできていない。ただ、ネットのニュースでは、なるべく英語のニュースサイトを斜め読みだけど見るように心がけている(*1)。そのなかで、NPRは気に入ってよくチェックしている。この3月末から、 "All Things Considered" と "Hourly News" を毎朝、目が覚めてから流しで聴くようにしている。

画像3

杉田先生の英語のプログラムに関して、一つだけ不満がある。

それは、汚い英語が聴けないことだ。つまり、NPRや CNNでニュースを聴いていると、アナウンサーが話しているうちは、それなりに聞き取れるのだが、街の人のインタビューとなると、まったく聞き取れないことが多い。

以前、イギリスのテレビドラマを見て勉強しようかと思ったら、さっぱりチンプンカンプンだったのでやめにした。米国のバラエティを見て観客と同時に爆笑できるレベルになるのは、ちょっと違ったレベルのトレーニングがいると思われる。もっとも、このあたりは、ビジネスで使う英語を身につけるということとは異なる領域だと思ってあきらめてもいいかもしれない。ただ、実際に仕事で困るのは、インドの同僚や、フランスの同僚など、クセのある発音と言いまわしの方々との会話だ。イギリス人や米国人も人によってはかなり会話しにくい。

ヴィニェットに登場する人物は、舞台がグローバル企業であることに相応しく、それぞれの出自などバラエティは考慮されている。発音、イントネーションや言葉の使い方など、それぞれ個性があって面白いし、しかも人物ごとに一貫しているので、それもこのプログラムの魅力の一つだ。しかし、やはり勉強のプログラムなので全員綺麗な英語で聞き取りやすい。

一流の企業の一流の人々と知的な会話を交わす相手は、豊富な語彙と複雑な構文をあやつり、綺麗な英語を話す人達が多くなるわけだが、中国・韓国や南アジアや北欧、地中海系欧州、など、そのへんの出身を想定したもう少しクセのある人を入れてほしいなぁと贅沢な願いを持っている。

そういえば、4月6日の朝に聞いていた NPR の "All Things Considered" で、こんなニュースが流れていた。

まだ布団に入ったままぼんやりと聞いていて、「ジェリコ」「ジェリコ」とそんな単語が連呼されて耳に入ってくる。はて「ジェリコ」ってなんだったかいな、ネイティヴ・アメリカンの部族だったかな、と、のそのそと起き上がって調べてみた。

そんな部族はないし宗派もない。地名も人名も、どれも、文脈に合わない。これはおかしい。それに、記事のどこを何度見ても、「ジェリコ」という単語はない。

記事を読みながら何度か聞き返しているうちに、迂闊なことに、どうやら "evangelical" が、そう聞こえているらしいことがわかった。念のため、ALCの英辞郎で発音を確認したが、こちらは ìvændʒélikəl または èvəndʒélikəl と普通に聞こえる(*2)。

evangelical 、「(新約聖書の)福音書の」とか「福音主義の」や「布教活動に熱心な」といった意味の一般的な形容詞だが、ここでは、アメリカのキリスト教プロテスタントの一派「福音派」という意味の名詞だろう。

以前にも書いたが、アメリカの土着化したキリスト教は政治的にも大きな力を持ち人々の考え方や行動に大きな影響を与えているといってよいようだ。特に、最近は福音派の力が強くなり、トランプ前大統領・前政権の重要な支持基盤でもあったらしい。

記事によれば、福音派の白人層の中で COVID-19 ワクチン接種を受けると表明する割合は50%ちょい、福音派の有色人種では64%ということだ。福音派以外の 77% に対してかなり低い。

One recent study released by the Ad Council found that just over half of white evangelicals said they were likely to get vaccinated, compared with 64% of evangelicals of color. Both groups were well below the rate for nonevangelicals, 77%.

福音派白人のリーダー的存在の Franklin Graham が「Modernaのワクチンを打つことに決めた」とFacebookに投稿したところ、何千ものコメントが寄せられ炎上したらしい(*3)。こういうことは私達には、進歩と科学技術と自由と民主主義の国・アメリカ合衆国でなぜそんなことになるのかわかりにくいことだ。

アメリカ合衆国のことを単純にわかったつもりになってはいけない。複雑で重層的な不思議な国なのだ。そして宗教ーキリスト教を抜きにして語ることはできない。そして、それは、人生の先輩から指摘されたとおりにピルグリム・ファーザーズまでさかのぼるのかもしれない。

アメリカに関してそのような側面からよく見てみよう、とまずは、「はじめての聖書」で触れてみて、さらに、森本あんり著「宗教国家アメリカのふしぎな論理」を先月読んだ。


ある意味、危険な本である。アメリカで土着化し浸透している独特なキリスト教、そして建国の理念と歴史からくる価値観・考え方・行動様式から、現代のアメリカに見られる社会現象や国際社会への言動、国内政策や、国民の行動など、一見すると矛盾していると思われる特質も、あまりに鮮やかに分析され説明されてしまうので、これがすべてだ、と思い込んでしまいそうだ。

ポピュリズム・反知性主義、勝ち組の論理としての富と成功という福音、正統と異端のダイナミズムという観点を軸に解説され、そして、最後に現代日本社会にみられる病理も少し触れられている。

本筋との関係ない点でもいくつか考えされられたり、新たな発見があった。

さきに、アメリカの歴史:George Friedman "The Storm Before the Calm," 現代アメリカの Political Agenda: Kamala Harris "Truths We Hold", そして、橋爪大三郎「はじめての聖書」を読んでおいたのは正解だったと思う。

前からぼんやりと考えていたことに枠が与えられた感じだ。

画像2

さて、人生100年時代と言われて久しい。2011年に出版された Lynda Gratton の "The Shift" は、当時にさっそく購入して読んでなかなか印象的だった。もう10年前になる。最近でも話題になっているので手にとって読んだ人も多いことだろう。

私達をとりまく環境や国際社会もテクノロジーも変化が速く、当たり前に安住できない世の中を渡っていくためには、一歩先の最新の生の情報に触れるようにすることが大事だ。だから語学力が必要なことは言うまでもない。そして、私たち向けに口当たりよく翻訳され、売らんかなの煽りタイトルや装飾された翻訳情報ばかりに頼っていると取り残されていく。すべてを自力でというのはばかげているとはいえ、自分が生きるための大切な手段を他人に保証してもらうのはよくないと思う。

そして、有限な時間と空間の中で生きる理性的存在である人間にとって、学び続けることは生きることと等しい。


それではご一緒に勉強して参りましょう。


■注

(*1)
私がよく訪れるのは次のサイトだ。最新のトピックで英語を読むのはもちろん、それぞれビデオや音声のストリームもあるので聞き取りの練習にもよい。
Reuters: https://www.reuters.com/
NPR (National Public Radio): https://www.npr.org/
BBC: https://www.bbc.com/
SPUTNIK: https://sputniknews.com/
ALJAZEERA: https://www.aljazeera.com/

専門領域は学会の IEEE Explore から必要に応じて、というか必要にかられて論文を読んでいる。ここのところずっとおろそかにしすぎかもしれない。
IEEEの科学技術ニュースで一般向けは、IEEE Spectrum という月間の冊子があり、こちらは一般の方でも楽しめるはずでおススメだ、

IEEE Spectrum: https://spectrum.ieee.org/

(*2) 改めて聴き直してみると、メインパーソナリティーの Sarah McCammon さんは、綺麗に発音されている。インタビュアーもインタビュイーも何人かの人はよく注意して聴くと "evan-"が弱く発音されているのがわかる。しかし、何度聞いても「ジェリコゥ」としか聞こえない発音の人もいる。私の耳が悪いのだろうか。

(*3) Franklin Graham のオリジナルの Facebook 記事 はこれ。

The internet is full of articles, theories, data, and opinions concerning the COVID-19 vaccines—both positive and...

Posted by Franklin Graham on Wednesday, March 24, 2021

2021年4月11日時点で、2万6千のコメントがついていて、1万のシェア。
キリスト教、神様、がこのような判断にどれほど重大なことであるか、私達には理解しにくいが、一端がつかめる気がする。
アメリカの宗教について研究している人は、こういうのは恰好の素材の一つなのだろうけどやっぱり全部に目を通したりするのだろうか。

 ■関連 note


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?