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アン・パセオ:Anne Paceo "Wide Awake"

2週間前の、火曜日雑記帳に、最近すごいミュージシャンを発見してしまった、とアン・パセオについてちょっと書いた。まずは、2022年の最新のアルバム、 "S.H.A.M.A.N.E.S"、その楽曲のなかから、ビデオクリップ3本と Spotifyのアルバムリンクを再掲しておこう。

アン・パセオと、もう一人のドラムス、Benjamin Flament (ベンジャミン・フラメント) を加えてツイン・ドラムスの重厚かつ多彩なリズムの上に、パーカッション、アン・パセオのボーカルに加え、数人の女性コーラスを迎えて浮遊するようなボーカルが重なり、新しい感覚の楽曲ばかりの傑作だ。

一曲目の "Wide Awake" は、冒頭から引き込まれるし、ドラマティックな展開がいい。アニメーションのビデオクリップも楽曲の深遠な感じで、アルバムタイトルの Shamanes (祈祷師たち)が暗示するエスニックな雰囲気がよく表れていると思う。3曲目の "Reste un oiseau" (鳥のままに)、もアフリカをイメージさせる不思議な雰囲気がいい。4曲目の "Piel"は、サックスのソロが聴かせる。

1984年にフランスで生まれ、子供のころはアフリカのコートジボワールで過ごしたそうだ。19歳から活動し、2008年に一枚目のリーダー作 "Triphase" をリリースする。Leonardo Montana(p), Joan Eche-Puig(b) とのスタンダードなピアノ・ジャズ・トリオだ。手数多めでパワフルかつ繊細なドラムスも楽しめる。全体的にお洒落なアルバムでいい。

2枚目のアルバム  "Empreintes"も同様なストレートなピアノ・トリオのジャズだが、3枚目の2012年のアルバム "Yôkai" から、突如、エスニックな要素が前面に出る。

1曲目と2曲目の"Shwedagon" はミャンマーのシュエダゴン・パゴダだろうか。アジアの片隅の村祭りのような歌を導入に、ゆったりとした pt1 でアルバム全体の世界観が提示され、テンポのいいリズムに乗って始まる pt2 をはじめ、全編、ギターとサックスとキーボードが織りなすテーマが印象的だ。

Pierre Perchaud のギターもAntonin-Tri Hoangのサックス、それぞれ狂気を孕んだ感じのソロがいい。ドラマーのアルバムならではの、ドラムスのソロ、"Talking Drums"もなかなかいい感じだ。5曲目は全2作と同様のピアノトリオの楽曲に控えめにギターとサックスがかぶさっていて変化がある。 Leonardo Montanaのピアノの玉をころがすように派手めで流麗なソロが聴きどころだ。民俗楽器が入ってないのにどこかエスニックな感じがするのは不思議な感覚だ。

この編成で、さらにミャンマーのパーカッション数名を加え、"Fables pf Shwedagon" と銘打って2017年に行われたライブがリリースされている。

これは、リズムが何層も厚くなりエキサイティングな演奏だ。一発でノックアウトされることだろう。

2016年の4枚目のアルバム "Circles" は、女性ボーカル・Leila Martialが入り、Tony Paeleman のエレピ(ローズ) の音が前面に出て、Emile Parisienのサックスとともに、シンプルながらバラエティ豊かなエレクトリックな楽曲になっていく。こちらも2017年のライブがアルバムでリリースされているし、動画で見ることもできる。

2016年のライブも YouTube で視聴できる。

これまでのエレクトリックな音作りやエスニックな要素をさらに統合し、ドラムス、キーボード、サックス、ギターと、女性ボーカルに加えて男性ボーカルという編成の2019年の "Bright Shadows" は、さらに飛躍した印象で、バラエティに富んだアルバムだ。

それにしても "Bright Shadows" とは、洒落たタイトルだ。

そして、2021年には自身のレーベルをスタート、今年リリースされたのが、 "S.H.A.M.A.N.E.S" ということだ。

なんといったらいいのだろう。数年ごとに、どんどん新しい要素を取り込み自らの音楽を大きく変容させながら、これほどまでにソフィスティケイトした完成度の高いものにできる、というのは、凄すぎる。

これからがさらに楽しみだ。見たことも聴いたこともない音楽の世界に私たちを連れて行ってくれるかもしれない。

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