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シコ・セザール:Chico César "Vestido de Amor"

ブラジルのシンガーソングライター、シコ・セザールのことを知ったのは、デュオ・ジスブランコを聴き始めてからのことだ。

不思議な魅力をもった2018年の"Pássaros"の曲は、シコ・セザールの共作だというし、その後のライブ収録のアルバムには "Pássaros - Homenagem a Chico César" シコセ・ザールへのオマージュということで、"Pássaros" の曲とともに、冒頭の4曲がシコ・セザール1995年のデビュー・アルバム "Aos Vivos" に収められている曲だ。

シコ・セザールは 1964年生まれで学校ではジャーナリズムを学び、ジャーナリストとして働きながら音楽活動をしていたということだ。1991年にヨーロッパでのライブが成功したことから音楽一本行くことにしたということだ。

1995年のデビュー・アルバムがライブアルバム、というのは人気に推されてのことなのだろう。このアルバムから "Mama Africa"、上にDuo Gisbrancoの演奏で紹介した "À Primeira Vista" がヒットし、以後2 - 4 年に1枚といったペースでアルバムを出している。

この  Aos Vivos" アカペラの1曲目、"Béradêro" から聴かせる。本人のギターのみのバック、後半はもう一人ギターが加わっていると思う、のみでシンプルなアンサンブルで曲の良さと歌が際立つ。

歌声は、明るさの中に怪しさが少しブレンドされた少ししゃがれた声で、聴きなれないメロディと曲の展開でありながら、しっかりとポップな感じだ。ブラジル北東部の音楽が基本となっている、というような紹介を目にするが、何処の音楽、というよりシコ・セザールの音楽としかいいようがないように思う。

デビューアルバムですでに、どの曲も曲目もまったく今の彼の音楽がすでに完成形で提示されていると思うし、今に至るまでクリエイティブでいるというのはすごいことだ。

Chico César - Wikipedia

ブラジル中心に多くのミュージシャンと人脈があるらしく、共演・共作も多いようだ。残念ながら、まだすべてを追い切れていない。

アルバムを聴いているなかでは、スペインに居住してフラメンコ・ギターを学んだというゼゾ・ヒベイロと共作の2004年のアルバム "Brincadeira" が印象深かった。

バイーアやカリブを感じるパーカッションやコーラスも、控えめだがよくマッチしていて楽しく聴ける。

インパクトあるジャケットも悪くはない。2019年の "O Amor É Um Ato Revolucionário" は、なんとなくインドネシアっぽい印象で好きな一枚だ。1曲目のタイトル曲は、ゆったりしたエキゾチックなイントロからしばらくしてインテンポで曲が始まり、コーラスも入り、次第に盛り上がるドラマティックな展開が聴かせる。

この曲は、今年にはいってブラジルのテレビ・ドラマか何かで使われたのだろうか、ブラジルの女性歌手・女優のSandy が歌ったものが動画でアップされていた。

2022年のアルバム "O Canto de Macabea ou a Hora da Estrela" 、ブラジルの女優のライラ・ガリンとの共作も、また違った方向でのインパクトありだ。

シコ・セザールの楽曲は、ブラジルからアフリカへのルーツの探求という部分を強く感じるが、それだけでなく、社会的・政治的なメッセージも強くこめられているという。私にとっては、言葉もそうだが彼の地の政治や社会の事情についても不明なので、個別に評論することはできないが、社会の理不尽に対する怒りのエネルギーを感じることはできると思う。

2022年にリリースされたアルバム "Vestido de Amor" を聴くと、彼のそのような様々な面を聴くことができる。

マリのミュージシャン、サリフ・ケイタとの共演の5曲目 "SobreHumano"、コンゴの音楽家レイ・レマ(Ray Lema)と共演の7曲目 "Xangô, Forró e Ai"、"Pausa" など、セク・クヤテのコラやパーカッションの響きやリズムもアフリカの色が濃い。

ビリンバウのイントロが印象的な3曲目 "Reboliço" もいい。

また、ボルソナーロ前大統領とその支持派を強烈に批判する "Bolsominions" も後半からの激しい展開にゾクゾクしてくる。

聴き慣れない音を耳にしたり、見慣れないデザインを見たときに、違和感や拒否感も覚えることがあるかもしれない。自分の世界を揺るがされる不安や怖さを感じることもあるかもしれない。

それは何かの終わりかもしれないし、何かの始まりかもしれない。


それはともかく、芸術やアートというようなものは、少し不安をかきたてるくらいに変わっているほうが面白く奥深いものだ。


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