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Chick Corea Elektric Band: "Eternal Child"

1986年に Chick Corea が "Chick Corea Elektric Band" をリリースしたとき、かなり新しい感覚で話題になった。もはやジャズ・ロックとかフュージョンというような分野はポピュラーな音楽のジャンルとして定着していたし、チック・コリアといえば、もちろん、そのジャンルの草分けの大御所だ。

シンセサイザーを主体とした音作りでリズムセクションも曲を支えるのがメインで大きく出しゃばることなく、多くの曲が3分から5分の長さで比較的単純な構成の曲ばかり、そんな曲を12曲並べた、まるでポップスのようなアルバムにも見える。

その割には聴いてみると、やはりチック・コリアらしい一筋縄ではいかない節がある。そして、どうも、この若いまだ無名のドラムス、ベースは凄腕のようだ。

だから、当時、ジャズ界だけだったかもしれないが、「なんだ、これは、この新しい感覚は?」と騒然となっていたと思う。

The Chick Corea Elektric Band は、チック・コリアのkbに、ジョン・パティトゥッチ (bs)、デイヴ・ウェックル (ds) がコアメンバーで、デビュー・アルバムではギターはスコット・ヘンダーソンだった。

私はどちらかというと、翌年リリースの2枚目のアルバム "Light Years" のほうが好きでこちらも良く聴いた。 サックスにエリック・マリエンサルを加え、ギターは、フランク・ギャンバレに代わった(*1)。

当時はチック・コリア以外のメンバーは全員若く、まだ知名度も低かったと思うが、確かな腕で後々活躍し今や全員大御所と言っていいミュージシャンとなった。

チック・コリアはマイルスがそうだったように目利きだ。若い才能あるミュージシャンを見つけるとインスピレーションが沸いて一緒に演奏をして新しい感覚の音楽を創りたくなるのではないか、と思う。


チック・コリア・エレクトリック・バンドは、ほぼ1年に1枚のペースで1991年まで計5枚のアルバムを出している。どれもいいが、私が一番気に入っているのは1988年の3枚目 "Eye of the Beholder"だ。タイトルもいいし、ちょっと他と違った雰囲気のカバーアートもいい。

以前、このアルバムはSpotifyで上がってこなかったのだが、ふと、最近聴けるようになっているのに気が付いた。

ジャケットで赤い服を着た小さな女の子が手を背中側にまわし裸足で直立している。目も表情も何かを決断したような強い意志を感じさせる。 2曲目の "Eternal Child" のビデオクリップを見るとわかるが、将来バレリーナになる女性の、幼いころという設定だ。背中側には練習用のトゥシューズを持っているに違いない。私はこの "Eternal Child"が特に好きで、この曲は本当によく聴いた。

1曲目 "Home Universe" はアルバム全体のテーマを提示し雰囲気を支配するような小品で、間をおかずにすぐに2曲目の "Eternal Child" が始まる。ピアノのソロ "Forgotten Past"を挟んで、"Passage" "Beauty"をキャッチーな曲が続き、荒涼とした風景を思わせる Cascade Part I をイントロのように 穏やかで不安なところも見せる Cascade Part II 、そして固い意志をうかがわせるようなアップビートな Trance Dance、そしてタイトル曲の "Eye Of the Beholder" は "Eternal Child" とともに複雑な表情が魅力な佳作だ。 

"Beauty is in the eye of the beholder." 何が美しいと感じるかその人の主観による、という意味で、"Eternal Child" の聴きビデオクリップ を見て、"Eye of The Beholder" を聴くと、ダンスや音楽に一生をかけるアーティストの夢と挫折とそれを乗り越えて成長する物語がここに表現されているのだろうか、というのは多分深読みのしすぎだろうけれど、なかなか味わい深いアルバムだと思う。


美しいと認識する対象と美しいと感じる経験は、見るものの主観によるが、美しいと認識する力と形式は我々皆が持ち客観としてあるものなのだ。


■注記
(*1) 2023/10/15 追記
2023年10月から Chick Corea Elektric Band の2016年のライブ音源がリリースされている。今(10/15)の時点でシングルが2曲だが、そのうちアルバムで出るかもしれない。1991年のアルバム "Beneath the Mask" から "Charged Particles."

7分弱の演奏だが短く感じる。キャッチーなイントロとテーマのメロディ、そして、ノリのいいリズムセクションに乗ってフランク・ギャンバレのソロが全開。

どの時点のメンバーをオリジナル・メンバーと言うかは微妙だが、この音源の冒頭で、エリック・マリエンサル(sax)、ジョン・パティトゥッチ(b)、フランク・ギャンバレ(g)、デイヴ・ウェックル(ds)を "The Original Elektric Band" として紹介している。


ちなみに"Charged Particles"とは荷電粒子ー電荷を持つ素粒子のことである。


■オフィシャル・サイト


 

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