アロハ・トゥ・ユー:ジェイク・シマブクロ Jake Shimabukuro "Aloha to You"
2006年だったか、超絶技巧のウクレレ奏者、ジェイク・シマブクロを初めて聴いたとき、それまで私が持っていたウクレレのイメージを一新する演奏に驚いた。
たとえば、次の動画を見るとウクレレ一本でここまでやるか、という驚きの演奏だ。
ループ・ディレイを使って数小節ごとに音を重ねて繰り返しのバッキングを作り、その上でメインのメロディを演奏する、このテクニックはギターでも見かけることはある(*1)し、これだけをとってみれば新しいことはない。右手のタッピングも駆使したフレージング、深めで明るいディストーションをかけたリード・ウクレレの音も、ギターならば目新しいものではない。しかし、ウクレレでここまでやってしまうとは。
次の動画では、ウクレレとギターとパーカッションのトリオでの演奏だが、明るく饒舌なウクレレの演奏が楽しめる。コンガの音で中南米の雰囲気もあり楽しいアンサンブルだ。
また、ジェイク・シマブクロの持つウクレレがこれまた美しく、見ているだけでもうっとりする。
2006年の映画だが「フラガール」のテーマソングといえば、知っている人は多いだろう。
フラガールはいろいろなバージョンで何枚ものアルバムに収録されている。思えば、私が初めて彼を聴いたのが2006年のアルバム "Gently Weeps" だったので、きっとこのフラガールで世間の話題に上がっていて私の耳に届いたのだろう。フラガールはこのアルバムの1曲目に収録されている。軽くて明るいバックもほのぼのとしているしウクレレで爪弾かれるメロディも綺麗で、思わず顔がほころんでくる。
バラエティのある粒ぞろいの曲ばかりで、アルバムタイトルにもなっているジョージ・ハリスンの "While My Guitar Gently Weeps" は聴きものだ。
演奏技術はエネルギッシュで超絶技巧であるものの、曲そのものは明るく口当たりがよいストレートなものなので、どの曲も聴きやすいし、なんといっても誰でも知っているような有名曲のカバーは映える。
実はちょうど、久々の日本でのライブツアーを終えたところらしい。残念ながら私は行けなかったのだが、Facebookのタイムラインには毎日のように楽しそうな様子が、演奏や、新幹線での移動、食事、などの写真とともに投稿されていた。
「よろしくお願いしまぶくろ」とは!
最近のアルバムでは、2019年の "Trio" 1曲目はディストーションの効いたギターのリズムが印象的だが、全体的にエコーを深めにかけて長くのばした単音を重ねた空間を感じさせる内省的な音作りだ。アコースティックギターを重ねた柔らかいリズムと音の "Red Crystal"もいいし、全部の曲を聴いていくとアルバムの印象が変わっていくのも面白い。
2021年の "Jake & Friends" は、もっとポピュラーよりの仕上がり。それぞれの曲でいろいろなミュージシャンと共演していて楽しいアルバムに仕上がっている。
いずれのアルバムもハワイアンとかウクレレといった枠を軽々と飛び越えたもので、しかし小難しいところはなくジェイクの笑顔が浮かぶようだ。
時代を切り開く先覚者でありながら、ノリがよく、しかし、売らんかなの姿勢もなく、自分が自分が、というところもない。難しい顔ではなく明るい笑顔でなにより楽しい音楽を作っていく、やはりそこはハワイアン、Aloha to You、おおらかに楽しめる音楽が大好きだ。
■注記
(*1) たとえば日本の女性シンガーソングライター・ギタリストでなかなか凄い人がいる。YouTubeでみつけた Anly という方だ。
Ovation の構えもかっこいい。惚れた。
また、当然、ギターだけでなく他の楽器でもあるが、エレクトリック・ベースでジャコ・パストリアスの演奏がなかなか刺激的だ。
■関連リンク
ハワイアンの音楽もそれほど詳しいわけではないが、「世界の歌姫たち」で紹介したエイミー・ハナイアリイには惚れていてよく聴いている。
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