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マジック・タッチ6:エイドリアン・ブリュー Adrian Belew "Young Lions"

ギターで動物の鳴き声を真似るおじさんが出てくるCMを覚えている人はいるだろうか。1990年くらいだと思う。

「ギターで動物の鳴き声を奏でたい、なんて夢見た男がいた」、このCMのナレーションには、ちょっと文句をいいたい。

「夢見た男」ではなく、「動物の鳴き声を実際に弾きまくった男」だ。


以前、スティーヴ・ヴァイを「ギターでお話ができる」と紹介した。

エイドリアン・ブリューの場合は「ギターで動物ともお話ができる」。


エレクトリックギターのいいところは、各種エフェクターやアンプのセッティングや奏法によって、いろいろな音色を出せることだ。最近ならばギターやアンプのモデリングもあるし、ギター・シンセサイザーもあるから、ほぼ万能といっていい。

エイドリアン・ブリューは、そのエレクトリックギターによる表現の可能性を存分に生かして、本当に自由に楽しく演奏する。初めて聴いたのは、上のCMが流れた1990年にリリースされたアルバム "Young Lions" で、いまだによく聴いている。聴いて元気の出るアルバムのひとつだ。

ソロの活動よりも、キング・クリムゾンの1980年から2000年ころまで正式メンバーとして活動してたし、デヴィッド・ボウイのバンドでギターを弾いていたこともあるので、そちらの方面で知っている人も多いかもしれない。

そういえば、アメリカで、デヴィッド・ボウイの追悼企画のコンサートツアーが始まったらしく、先週、エイドリアン・ブリューが Facebook に投稿していた。

rehearsals are over and Das Bus has arrived! 30 shows across the states and canada. Celebrating David Bowie, here we come!!!

Posted by Adrian Belew on Wednesday, October 5, 2022

アルバム "Young Lions" の中で デヴィッド・ボウイをボーカルに迎えた "Pretty Pink Rose" というかっこいい曲がある。

デヴィッド・ボウイの日本公演での演奏が動画にあがっている。

デヴィッド・ボウイの短いイントロダクションもかっこいいし、さすがのボウイの声、そして跳ねるように踊りながらギターを弾くエイドリアン・ブリューもすばらしい。PA がよくなかったのか、エイドリアン・ブリューの歌声のボリュームが低くいのがちょっと残念ではあるが、気に入っていて何度も視聴している。

1980年から1990年代のクリムゾンといえば、ベースがやはり私が大好きなベーシスト、トニー・レヴィン,だし、ドラムスがビル・ブラッフォードなので、もっと聴いていてもいいはずだが、キング・クリムゾンはあまり聴いていなかった(*1)。

ちょうど、"Elephant Talk" という曲がひっかかったので、貼っておこう。

エイドリアン・ブリューは変幻自在なギターもいいけれども、歌もいい。そして、作曲もアレンジもほとんどの楽器も自分で扱えるらしい。デビューアルバムは 1982年の "Lone Rhino." 日本語に訳するのは難しい。Lone Wolf 「一匹狼」にかけているように思うが、「一匹犀」ではイマイチだし、「独り者のサイ」とか「孤独なサイ」ではあんまりだ。

アナログ盤しかないようなので、デジタル音源化を望む。 

1989年の "Mr. Music Head" もいい。こちらは、動物の鳴き声を思わせる音がふんだんで、どこからどこまでギターで弾いているのか、電話の呼び出し音やざわめく人の話し声までギターで弾いているのでは、と思わせるところがある。

そして、やはり私の一番のアルバムは、"Young Lions" だ。

1曲目のタイトル曲は、夜のアフリカの密林と潜む動物たちをヴィヴィッドに想像させ、歌詞も大好きだ。

Why is this night quiet?
Filled with trees, filled with eyes
As she prowls around my feet
She throws her head dressed and cries
"Now you will be mine
Be my young lions"

Adrian Belew Young Lions

ジャケットのデザインもお洒落で気に入っている。

2曲目が上に紹介したデヴィッド・ボウイを迎えた Pretty Pink Rose、6曲目はロイ・オービソンの "Not Alone Anymore," 人工知能AIに語らせるかのような哲学的な5曲目の "I know What I am"も面白い。"Looking for UFO," "Man in Helicopters," "Small World," "Phone call from the Moon" と、宇宙を見る私たち、宇宙から見た私たち、そんなイメージの曲が続き、最後の "Gunman" で 一気に走り切る感じだ。


髪を後ろに結って細身で背が高くスタイルのよかった彼ももう、73歳、年相応にすっかり太っておじいさんっぽくなったけれども、いまだに精力的に活動していている。

近年は、ベースに女流のジュリー・スリック、ドラムスにトビアス・ラルフを率いて、エイドリアン・ブリュー・パワー・トリオとしての活動がいい。2014年のライブでの "Young Lions" の演奏が大好きだ。パワフルでエネルギッシュなリズムセクションの上で、技を駆使した演奏を堪能できる。

ライブアルバムも出ている。Amazon Music で聴ける。


彼の Facebook アカウントは、ご本人が自ら投稿しているようだ。ときに長文の面白いエピソードが読めるのでいつも楽しみにしている。



■注記

(*1) プログレを聞く時間がなかったのだ。

大学のときの友人・中村文隆君の薫陶をうけて現代音楽を嗜んだり、コンピュータ音楽の先端に触れさせてもらったり、ジャズへの傾倒が高じてビル・フリゼルを通してアヴァンギャルドな世界、オーネット・コールマンのプライムタイム、そして古典ならジョン・マクラフリンのマハヴィシュヌ・オーケストラなど、そして世界の民俗音楽に耽溺していた。

クリムゾン、ピンク・フロイド、イエス、など、ヒット曲は聴いたことがあったものの、たまたま私の通った道はプログレを経由しなかったのだ。

中村君に誘われての音楽活動については、ライブの動画も含め雑記帳 9 に書いておいた。


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