皇統断絶よる日本の混迷の一解釈

まず、皇統の持続可能性について改めて整理する。本来は皇室が意思決定することであるが、皇統維持のための現在の議論として以下が挙げられる。
1. 現場維持
2. 女性天皇の容認
3. 旧宮家の皇籍復帰
4. 女系天皇の容認
5. 男児の誕生を祈る
1と2は本質的な解決になりえない。3と4は皇統の維持を可能にするが、いくつかの問題を残すことになる。3は男系が維持できるが、皇籍復帰した者の権威を現在の国民が認めるのか?という疑問が残る。4は慣習を無視することに等しく、皇統に対する裏切りともみられるため、権威失墜の恐れがある。5に期待するのは…、だが異論は出ない。重要な点は、国民国家全体の合意の下で、3または4が受理可能かということだ。現時点での与野党や知識人の合意形成能力の著しい低下をみる限り、2100年まで(長く見積もっても)皇統を維持することは非常に困難といえる。つまり、神武以来2600年以上(少なくとも1400年以上)続いてきた伝統が崩壊することが容易に想像できる。この崩壊が日本に与える影響を勝手に分析(妄想)したい。

皇統断絶は日本史上イレギュラーな事態であることは明白だ。1400年以上続く日本の政は天皇の権威を前提としている。この前提が崩れるとともに混迷した時代がやってくるだろう。

第一に、現在の日本国憲法が前提としない状況が発生する。このような事態に対して、事前に憲法の該当部分を改正することは、天皇の否定を意味する一方で、事後的に憲法を改正するには超法規的措置または相当の強権力が必要となる。筆者はこの状況で憲法改正が可能かどうかはわからない。またGHQ統制下で制定された現行憲法の正統性に疑問視することで、現行憲法を破棄し、明治憲法に戻ることも出来ない。まさに八方塞がりである。現実的な解法として事後的な憲法改正が挙げられる。民主的プロセスを経て憲法改正を実施する場合、改正までに十分な議論の時間が必要となる。ただしこの議論は皇統断絶を前提としているため、天皇存命中に実施することは恐らく困難だろう。それ以前に合意形成能力のない国会はそのような議論すらできない。強権的なプロセスを取る場合、合法的・非合法的に関わらず、国民主権に基づく正統性は保証されない。そもそもコロナ禍で街一つロックダウン出来ない政府、国会が非常事態に対処できるはずがない。いずれにしても、この混迷の行き着く先が封建制、共和制、民主制、独裁かわからないが、高い確率で米国の真似事をするのだろう。

第二に、共通基盤の崩壊が考えられる。国語(共通言語)、歴史(神話)、道徳(宗教)を通して共通感覚が国民で共有される。皇統断絶は歴史を通して紡いできた神話と宗教の崩壊を招く。当たり前だが、筆者自身は王朝の崩壊を経験したことがないため、皇統断絶後の歴史教育が自身にどのような影響を与えるのかは理解できない。ただし、現在でさえ合意を形成するために必要な共通基盤が脆弱であることからも、今以上に共通基盤の脆弱性が悪化するのは目に見えている。更に、移民(技能実習生)による国語の崩壊も現在進行中である。以上を踏まえると、建前として戦後崇拝してきた米国の上辺だけからなる神話をより求めるのだろう。(実際は建前の仮面をつけているに過ぎないが…)そもそも日本は国民国家としてのナショナリズムが皆無の国であることは、東日本大震災や能登半島地震における政治家の発言から明らかである。この点を踏まえると、恐らく今以上に金、新興宗教、イノベーション、自己愛、選民思想、自己責任論にのめり込み、失敗しつづけるのだろう。そして共通基盤を固めない限り日本文明は没落しつづける。古代中国や古代ギリシャで実践されたような人生観レベルでの議論がこの没落に歯止めをかける処方箋の一つになりうる。

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