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【人事に効く論文】人的資源(≒人的資本)はやっぱり測定が難しいんですね…

佐久間智広. (2016). 人的資源と組織業績. メルコ管理会計研究, 9(1), 43–55.

1. 10秒で分かる論文の概要

インタンジブルズ(無形の資源)の中でも特に重要な人的資源の測定は、会計学・ 行動科学・人的資源管理論・経済学・経営戦略論等、複数の領域で研究されてきました。この論文では、人的資源の測定に関する先行研究がレビューされています。
(論文内で「人的資源とは、従業員個々人の持つ知識、スキル、能力を指す」とされていましたので、人的資源=人的資本と読み替えても大きな間違いはないと思います)

2. ポイント選り抜き

日本語の論文です。皆さんが読んでいただくのに、全く抵抗はないことでしょう。そこで「お、読んでみようかな」と思ってもらうため、個人的に重要だなと感じたポイントを箇条書きで選り抜きします。

  • インタンジブルズは物的資産や金融資産と異なり、要素市場での交換、移動が難しい、価値の低下が時間に比例しない、正確に測定することが難しい、他の有形・無形資産と組み合わさって初めて価値を生む、コストと収益の関係が明白 ではない、といった特徴を持つ (櫻井 2011;Augier and Teece 2005;Kaplan and Norton 2004; Marr and Roos 2005;MERITUM 2001)

  • 人的資源は(中略)物的資産や金融資産と異なる特徴を持つため、他の資産のように合理的に測定することができない (内山 2010, 2011;桜井 2014;Fulmer and Ployhart 2014;Wyatt 2008)

  • 人的資源会計研究は、基本的に人的資源を金銭的数値で表現することを志向しており、歴史的原価や取替え原価、給与等で人的資源を測定する (内 山 2011;若杉 1973, 1979)

  • しかし、人的資源へのインプットは業績、つまりアウトプットとの関係が明らかではない、という問題を持つ(内山 2011)。利益や売上といったアウトプットは、人的資源以外にも物的資源、外部環境など様々な要因の影響を受ける。このような要因を特定、分離して、人的資源が業績に与え る影響を把握することは困難である。また、人的資源のインプットとアウトプットとの関係にはタ イムラグがある。このタイムラグの長さや投資の 効果の持続期間を見積もることは難しい

  • 人的資源会計の文脈では、人的資源の代理変数として多様な尺度が提唱されたが、上のようにアウトプットとの関係を明らかにすることが困難で あったため、開発された尺度やフレームワークをもとに行われた研究では、人的資源の合理的な測定基準を確立することができていない(Fulmer and Ployhart 2014)

  • 管理目的のみを考えるのならば、必ずしも会計基準に則した数値を用い る必要はなく、非財務指標を組み合わせた測定も また有用であるということも指摘されている (若杉 1973, 1979;Flamholtz 1999)

  • 非財務指標で測定された人的資源は、財務指標によって測定される組織業績と単位が異なる。そこで、非財務指標で測定された人的資源に関連する要素と、財務業績との因果関係を示すためのフレームワークが開発され、研究がなされた。例えばバランスト・スコアカード(BSC)(Kaplan and Norton 2001, 2004)、MERITUMガイドライン(MERITUM 2001)、バリュー・チェーン・スコアボード(Lev 2001)などのフレームワークが提唱された(Ittner 2008)

  • 因果関係の検証の困難性から、BSCをはじめとする因果的フレームワークに組み込まれる人的資源の測定尺度としての非財務指標は、財務的業績との論理的、統計的な関係に基づいて設計、利用されるわけではなく、財務的業績と何らかの関係があるはずだ、という経営者の信念や見込みに基づいて設計、利用されることとなる (安酸ほか 2010;Ittner 2008)

  • アウトプットから人的資源の価値を測定するためには、アウトプット情報である企業価値や将来 利益の見積もりを何らかの基準を用いて物的、財 務的、人的資源に分離するという手続きをとる。しかし、将来の企業価値や利益額を合理的に見積もることが困難な上、それらを物的、財務的、人 的資源に按分する合理的な基準がない。そのため、按分する基準を人的資源投資率などのインプットの数値とする方法が用いられる (若杉 1973; Flamholtz 1999)。人的資源会計におけるアウトプットアプローチは、インプット尺度に依存しており、インプットアプローチと同様の限界を持つ

  • Crossland and Hambrick(2011)は、企業業績の変動にCEOの違いが与える影響を15カ国のデータで比較し、CEOの効果が国ごとに大きく異なることを発見した。例えば米国ではROAの変動の約16%、ROSの変動のうち約 10%が経営者の効果であるのに対して、日本ではROAの変動のうち約6%、ROSの変動のうち約7%がCEOの効果であった

  • インプットアプローチ、アウトプットアプローチは、どちらも利点と欠点があり、人的資源と業績の関係を明らかにするには至っていない。しか しながら、両アプローチを組み合わせることによって、人的資源の測定・管理に有用な情報を提供できる可能性がある

3. 読後の余談

人的資源の測定について、とても分かりやすくまとまっていました。人的資本に興味のある方は是非、読んでみてください。Google Scholarで検索すれば、すぐにPDFを入手できますよ。

2022年9月11日 初稿作成

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