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【人事に効く論文】ジョブ・クラフティング研究の展開に向けて

ジョブ・クラフティングに関する従来の研究をまとめたレビュー論文(日本語)です。

高尾義明. (2019). ジョブ・クラフティング研究の展開に向けて: 概念の独自性の明確化と先行研究レビュー. 経済経営研究, 1, 81–105.

1. 5分で分かる論文の概要

ジョブ・クラフティングを理論づけた論文であるWrzesniewski and Dutton (2001)の紹介を皮切りに、ジョブ・クラフティングに関する先行研究の流れが整理されています。恐れ多くも、その内容をさらにまとめてしまうと、以下のような感じです。

Wrzesniewski and Dutton(2001)が定義したジョブ・クラフティング
Wrzesniewski and Dutton(2001)はジョブ・クラフティングを「個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」として定義し、以下の3つの次元(3つの境界変更)に構造化しました。
・タスク境界(task boundary)の変更
・他者との関係性もしくは相互作用に関する境界(relational boundary)の変更
・認知的なタスク境界(cognitive task boundary)の変更
ジョブ・クラフティング の動機としては、「仕事についてのコントロールや仕事の意味に対する欲求」「ポジティブな自己イメージの欲求」「他者との人間的な関わりに対する欲求」の 3 つがあげられ、いずれも個人に内在する基本的な欲求といえます。
また、ジョブ・クラフティングの結果、個々人の仕事の経験が変わり、それによって「仕事の意味(Meaning of Work)」や「ワーク・アイデンティティ(Work Identity)に影響を及ぼすとされています。

ジョブ・クラフティングと他の類似概念の違い
(1)職務特性モデル(Hackman & Oldham, 1980)に基づくジョブ・デザインの考え方とジョブ・クラフティングは異なります。ジョブ・デザインは組織または管理職が行う前提であり、従業員は受動的な存在です。一方、ジョブ・クラフティングにおける従業員は能動的な存在であり、従業員が自らの仕事を変更する前提になっています。
(2)広義のプロアクティブ行動(役割変革、役割形成、個人的進取、率先、組織市民行動、タスク改訂など)とジョブ・クラフティングは似てるけど、ちょっと違います。プロアクティブ行動の広範な定義である「状況や自身の変化・改善を目指した自己主導的で先を見越した行動」に対し、ジョブ・クラフティングに太字部分は必ずしも当てはまりません。
(3) Rousseau(2005)による Idiosyncratic Deal(I-deals)とジョブ・クラフティングは、共通点はあるものの、やっぱり異なります。I-dealsは、「双方に利益になるような諸項目に関して、個人が雇用者との間で交渉した、非標準的な性質を持つ、自発的かつ個別的な合意」であり、従業員と管理職との間での交渉・合意がある前提です。つまり、管理職から判別できる状況にあるのです。一方、ジョブ・クラフティングは従業員の認知的な変化も含むため、外からは判別できない場合があります。また、変化の対象範囲もやや異なる上に、ジョブ・クラフティングは組織に利益をもたらすものであるとは限りません

JD-Rモデルに基づくジョブ・クラフティングの操作化
Bakker、Demerouti、Derks、Petrou、Timsらのオランダ研究者グループが、JD-Rモデル(仕事の要求度-資源モデル)に依拠してジョブ・クラフティングの量的測定尺度を開発し、研究を進めています。ただし、Wrzesniewski and Dutton(2001)とは以下の通り、認識論的に立場が異なります。
Wrzesniewski and Dutton(2001)・・・仕事は個々の従業員によって絶えず再創造され、つくりだされている。”客観的な仕事”は、その従業員にとっては存在しない
オランダ研究者グループ・・・”客観的な仕事”がまず存在していることが前提。客観的な既存の仕事に対し、従業員が資源や要求を日々調整している

3次元モデルを前提とした研究
タスク・関係性・認知という3次元構造を前提にした研究も近年増加しています。職務的・社会的要因の影響、協同ジョブ・クラフティング、余暇活動との代替性など、内容も様々。日本でも実証研究が進んでいます。
また、2018年以降、オランダ研究者グループのJD-Rモデルと3次元構造モデルの統合を図ろうとする動きも出てきています。

2. 現場目線の解説/感想

ジョブ・クラフティングを私なりに分かりやすく解釈しますと、「仕事をより良く遂行できるよう、自分なりにアレコレ工夫してみること」です。アレコレには、仕事そのものの進め方を改善する行為、ステークホルダーとの関わり方の見直し、仕事に対する自身の考え方・捉え方の変化など、様々なものが含まれます。
ただし、そう解釈すると、「そんなん、当たり前じゃん」って思ってしまいませんか? 諸外国の企業とは違って、ジョブ・ディスクリプションで職務内容が明文化されていない日本企業においては、一般従業員であっても毎年の目標や重点課題を自ら設定したり、自分でしかも勝手に仕事の範囲を決められたりします。なので、ジョブ・クラフティングと言われてもピンとこない日本人が多いような気がするんですよね…。
一般従業員がセルフ・ジョブ・デザインしているような状況にある日本企業において、このジョブ・クラフティングという考え方が受け入れられていくのか、今後の展開を注視したいと思います。

3. 読後の余談

ジョブ・クラフティングについては、立教LDCの1期生である塩川さんが主だった文献のnoteでまとめています。この記事にたどり着く奇特な方であれば、すでに参照済みかもしれませんが、まだであればそちら↓へと旅立ってください。

4. 関係性の高い論文

Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a Job: Revisioning Employees as Active Crafters of Their Work. AMRO, 26(2), 179–201.

2022年1月26日 初稿作成
2022年1月27日 一部修正

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