【人事に効く論文】役割が曖昧だと部下のエンゲイジメントは下がります。でも・・・
1. 30秒で分かる論文の概要
役割曖昧性(role ambiguity)を仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)にからめて、役割外行動(extra-role behaviors)との関係を研究した論文です。スペインの多国籍企業の従業員706名からアンケート回答が集められ、以下の仮説が検証されました。
仮説①:役割曖昧性は、ワーク・エンゲイジメントに有意な負の影響を与える。
→ 支持された。この結果は、役割曖昧性が「仕事の要求」の一つであり、ワーク・エンゲイジメントとパフォーマンスに負の影響を与えるという先行研究と一致している。
仮説②:役割曖昧性がワーク・エンゲイジメントに及ぼす影響は、上司からのパフォーマンス認知(performance recognition)によって調整され、影響が変化する。
→ 支持された。上司からのパフォーマンス認知は、役割曖昧性が従業員のワーク・エンゲイジメントに及ぼす影響を否定的なものから肯定的なものへと変化させた。
仮説③:役割曖昧性は、ワーク・エンゲイジメントを介して役割外行動に有意な負の影響を与える。しかし、この媒介プロセスは、上司からのパフォーマンス認知によって調整される。つまり、パフォーマンス認知が大きいほど、負の影響は小さくなる。
→ 支持された。上司からのパフォーマンス認知による調整効果が、役割外行動に対する役割曖昧性の否定的影響を減少させる。
2. 私的な解説/感想
これまでの研究では「役割曖昧性は仕事の要求の一つであり、ワーク・エンゲイジメントに負の影響を与える」とされてきました。しかし、役割曖昧性による影響は必ずしも負のものではなく「上司からのパフォーマンス認知があれば、正の影響にもなり得る」と示唆したことにこの論文の価値があります。上司がしっかりと部下の頑張りを認めれば、仕事における役割が曖昧でも、それをチャレンジと受け止められるということです。以前のnote記事で紹介した、変革型リーダーシップが部下のワーク・エンゲイジメントを高める状況と似た感じです。
3. 読後の余談
メンバーシップ型雇用の日本企業では、ジョブ・ディスクリプションが存在しません。つまり、もともと役割が曖昧なんです。そんな中、上司の皆さん、部下の頑張りをしっかりと認めていますか?部下の役割外行動がほとんど見られないとしたら、ご自身によるパフォーマンス認知が足りないのかもしれませんよ。
2023年10月29日 初稿作成