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少し最近の江國さん2作品

人生で1番最初に好きになった小説家であり、
ずっと1番好きな小説家であり、
1番家に本(ハードカバー)がある小説家の江國香織さん。

今も新作を書いてくださっていますが、
最近の2作
「シェニール織とか黄肉のメロンとか」
「川のある街」
も購入し読み終えてましたので記録しておきます。
まだ1回しか読めていないので再読したら感想が変わるかもしれませんが。

まずはこちら。23年9月初版ですので約1年前です。

装丁が昔ながらの江國作品らしいイラスト

大学時代は共にしたけれど
性格も生活スタイルも歩んできた人生も違う女性3人の
50代になってからの友情の物語。

卒業後ずっと一緒にいなくても"まぁこの人はこうだから"とわかるのは
長く付き合いがあるからこその感覚で憧れます。
私も大学時代の友人は一生付き合っていきたい人が何人かいますが
本作の3人のように
結婚、離婚、出産、海外移住、親と同居など
歳を重ねるごとに生活スタイルが変わっていきます。
それでも、
理枝のように社交的で友人知人も多いタイプが
"結局のところ、あたしが腹を割って話せるのは民子と早希だけなんだわ。"
と言い切れるような関係。
これが江國さんの描く女同士の友情だなと感じます。
人と比べて妬んだり僻んだりせず
人は人、私は私という感じでさっぱりしている。
最後はやっぱり友情って大事と思えるような有り難さが素敵です。

タイトルの意味がわかった時にも、
ああこれこそ江國さん!と思いました。
昔、言葉は知っていてもそれがどんなものかわからなかった、
きっと素敵なものなんだろうと想像していたものたち
(だけど現実は思っていたものと違ったものたち)がタイトルになっているというのは、
案外人生もそんなものなのではという。
「泳ぐのに安全でも適切でもありません」のような。

面白いのが、自分たちが見たことはないけれど素晴らしいと思っているものを
"シェニール織沙汰"などの造語まで作っていた話。
仲の良い友人同士でしか通じないような言葉、
心当たりがあります。

個人的には、朔とあいりのカップルがとても好きで
特に朔があいりに対して感じることの表現が
健やかで真っ直ぐで美しくて若々しくてぐっと来ました。
感想が老人。

続いてこちら。24年2月初版です。

装丁の色味も素敵です

3作の短編から成る1冊で、
ざっくりと分けると少女の話、カラスの話(?)、老年の女性の話。
1作目の望子が主人公の話は小学生の友情と心理描写が瑞々しい。
年代は違いますが思春期の少女といえば「いつか記憶からこぼれ落ちるとしても」、
最近では「彼女たちの場合は」も少女たちの冒険でしたが、
江國さんは私自身にはもう思い出せない小学生の考えや気持ちを
今でもこんな風に表現できることに驚きます。
よく喋る大人との対比も、子どもの目線から描かれるのが流石です。

Ⅱは個人的に苦手だった
「カエルヤモリシジミチョウ」のようなテイストで
動物が主人公だと置いてけぼり感は感じました。
動物に興味がないせいでしょうか…。

Ⅲが1番好きで、
同性の恋人(籍を入れていたので配偶者)に先立たれ
痴呆を抱えながらもそれを受け入れ、生きていく老年の女性が主人公。
自分が老いて記憶が曖昧になっていった時のことも考えながら読みました。
自分では留まろうとしているし
大丈夫だと言い聞かせてるけど
周りから心配されていくその現実とのギャップに私は耐えられるだろうか。
体や脳が思い通りにならなくなっていく感覚は未知です。
でも、けして話が暗くならないのが江國さんならではです。

オランダが舞台で、ヨーロッパらしい街並みの情景描写も素敵です。


何十年経っても瑞々しさを失わず、
でも時代に合った作品を描き続けてくれる江國さん。
こうして読み続けられることに感謝を込めて。

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