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キャリー・ネイションと世相

 アメリカでは1920年から1933年まで禁酒法が施行された。アルコールの製造、販売、輸送が全面的に禁止された法律である。まあ、この法律が抜け穴が多い「ザル法」であり、暗黒街の顔役アル・カポネをはじめとしたギャングらが、酒を密輸して違法な酒を売買し巨万の富を得たのは周知のとおりなのだが、それ以前に狂信的な禁酒運動をした人物がいた。

 キャリー・ネイションは1846年生まれ。聖書を元にした急進的な禁酒活動家の一人。はじめはただの抗議活動に過ぎなかったが、最終的にはアルコール飲料を扱う店に入って、マサカリを使って備品や在庫を破壊してまわった大柄のおばさんである。まるで作り話のようだが実在の人物。

そもそも彼女は夫がアルコール依存症であったことから、禁酒の活動を行っていたが、ある時「酒場を粉砕せよ」という神の啓示を受けたと称して、マサカリを使った破壊者になってしまったのだった。当然逮捕されたが、彼女の行為を快挙と見た人も多く、お土産の「マサカリ」の売上や講演活動の報酬があり保釈金を支払ったという。彼女はこの行為を繰り返し、30回以上も逮捕されている。

 身長180センチ、体重80キロというかなりの大柄で、片手にマサカリ、片手に聖書を持ったばあさんが酒場にやってきて、賛美歌を合唱する聖歌隊を従えながら、悠々とマサカリをふるってすべてを叩き壊すのである。キャリー・ネイションはそれを「hatchetations」(日本語訳:マサカリ主義?)と呼んだ。
 夫をアルコール依存症によって亡くした彼女は、その生涯を酒との戦いに捧げることになったわけだが、彼女は死ぬまで酒との妥協を許さなかった。彼女は禁酒運動の演説中、倒れて亡くなった。

 さて、自分にそぐわないと感じたものを、マサカリをふるってぶち壊し、火を放ってぺんぺん草も生えないように、徹底的に排除しようとする人たちは実は今でもいる、と思う。具体的には言えないけれど。実は、あなたの背後にマサカリを持ったおばあさんが立っているのかもしれない。

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