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「アウトレイジ 最終章」(ネタバレあり)

 「アウトレイジ」「アウトレイジビヨンド」に続く、北野武監督のヤクザ抗争映画の最終作。私は北野武監督の作品は「ソナチネ」「BROTHER」「HANA-BI」と見ていて、いわゆる「キタノブルー」と言われるような流れに慣れていたから、「アウトレイジ」「アウトレイジビヨンド」での暴力描写、暴言の飛ばし合いに度肝を抜かれてしまった。

 このシリーズは、いくつもの組を束ねるヤクザ組織の抗争に、ビートたけし演じる主人公・大友が巻き込まれていくもの。名優たちの舌鋒鋭いやり取りや、互いの腹の探り合いも見どころだけど、やっぱり暴力描写であろう。

 それが痛い。「アウトレイジ」での歯医者のシーン、指を詰めるシーン、そして後半の殺し合いでもう切なくなってしまう。「アウトレイジビヨンド」での名台詞(?)である「野球やろうか」からの展開など、よくもまあそこまで考えたものだとびっくりしてしまった。


 ところが、である。「アウトレイジ」「アウトレイジビヨンド」でギラギラしていた主人公・大友は、この「アウトレイジ最終章」では、前作と同じ描写も多いが、どこか「老い」と「枯れ」を感じるのである。

 「アウトレイジビヨンド」の後、大友は韓国のフィクサーである張(チャン)会長(金田時男)に匿われ、済州島で張の組織の用心棒として暮らしていた。ところがある時、因縁のある関西のヤクザ組織・花菱会に所属する花田(ピエール瀧)がそこで問題を起こし、なおかつ張の部下を殺したことから大友らは激怒。

 花田は兄貴分の中田(塩見三省)に事件を伝え、張会長に3000万円を持って詫びを入れに行くが、張会長はこれを受け取らない。花菱会の若頭・西野(西田敏行)、花菱会の新しい会長・野村(大杉漣)らの思惑も絡んで、事件は思ってもいない方向に拡大していく…といった話。

 しかし、ピエール瀧はこういう怖い役がすごくうまいなー。映画「凶悪」でも元ヤクザの死刑囚を演じてましたが…

(とか言ってたら捕まってしまった)


こじれていく関係

 …とまあ、ここまで書いてきたが、3部作は「だいたい同じ構造」から成り立っている。「ちょっとしたいざこざ」が、いろんな人間関係によってことが大きくなっていき、最終的に殺し合いに発展してしまうのだ。

 例えば、「3000万円持っていけばなんとかなる」と考えた中田と花田は、張会長らの事務所で、相手が日本語を知らないと思い込んで、眼の前で悪態をついてしまう。すると、張会長は激怒する。張の組織は張以下日本語も分かる韓国人ばかりだった…というシーン。

 余談だがこれ、「BROTHER」で山本(ビートたけし)が「fackin'japぐらいわかるよ馬鹿野郎!」と言い放つシーン(予告編でも使われたので、知っている人も多いと思うが)とそっくり。

 さて「アウトレイジビヨンド」では花菱会きっての武闘派として登場した中田であるが、本作では塩見三省の病気からの復帰もあり、かなり弱々しい。しかし、その中での演技が逆に不気味さを醸し出している気がする。中田は本作では、野村と西野の板挟みに遭う中間管理職的な描き方が多かった。

 余談が多くなったが、例えばこういう「ちょっとしたお互いの認識不足」から、事が大きくなっていくというのが、「アウトレイジ」シリーズでの魅力で、好きな人はこのあたりで「さあ、きたぞきたぞ」と思うことだろう。なんというか、「揉め事」を脇から見るような、野次馬根性的面白さなのかもしれないなと思ってしまった。


ヤクザだけにあることではない悲劇

 そして、もう一つが、「梯子を外された人たち」、言い方を変えれば「トカゲの尻尾の人」の物悲しい最期である。ヤクザの間では上からの命令は絶対だが、上の者が優柔不断だったり、別の思惑があったりすると、話が変な方向に向かってしまう。事の始末を命令された人物が逆に殺されたり、責任を取らされたり。

 でもこれは、ヤクザだけじゃないんだよなあ…と、私は「アウトレイジ」を映画館で見ていた時、ぼんやり思ってしまった。もちろん、ここまで強烈ではないが、会社組織に所属している人間は、上司の支持に従った結果失敗し、なおかつそれを守るはずの上司に知らんぷりを決め込まれ、窮地に陥ってしまった…なんていう経験は、多くの人がしているのではないか。

 「最終章」でのその悲劇の対象者は、花菱会の新しい会長・野村である。元の会長であった布施(神山繁)が亡くなり、後継者として指名された野村は布施の娘婿であるが、元証券マンでヤクザの経験がまったくなく、刺青もないことから西野からは呆れられている。そんな野村が百戦錬磨の西野を出し抜くべく、浅知恵を駆使して中田と西野を仲違いさせようとするが、当然2人の方が一枚も二枚も上手で、最終的には信頼していた森島(岸部一徳)からも「知らんわい。おどれなんか子分がおらんかったら、ただの定年迎えたサラリーマンやないか」と言われてしまう。

 最終的には顔だけだして生き埋めにされてしまい(しかも予告編に映ってる!)、車に轢かれてしまうという悲惨な最後を迎える。

 「理不尽なこと」は誰にも降りかかることなのだ。


余談:鈴木慶一の音楽
 三作ともに鈴木慶一が音楽を担当しているが、この荒涼とした世界に無機質な音楽がぴったりと合っている。こんなことを言うのは野暮だが、久石譲ではこの味わいは出せないのではないか(久石譲なら、音楽でもっと語ろうとするだろう)。

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