金沢に行きたい
わたしはほんの僅かな例外を除きヒト科ヒト目ヒトという生物が嫌いである。コイツラはだいたいみんな悪い奴らで悪いことばかりを企んでいて、その有り余る悪意をもってわたしに意地悪ばかりする。そうしてわたしがメソメソするのを見てゲラゲラ爆笑したりする。もうヒトなんて嫌だ。たくさんだ。誰も信用できない。だが、そんなヒトの群れの中で生きていかなくてはならない、という悲劇的な宿命を背負ってわたしもまるでヒトのように生きているわけで、これはとても悲しいことだと思う。
ということで、今年もプチ失踪の季節が巡ってきたように思う。わたしはだいたい年に1回、プチ失踪と称してちょっと遠くに出かけることを自らに義務づけている。そうでもしないと心も身体ももたないのだ。知ってるヒトが誰もいない東京から離れたどこかへ行き、そこで独りになる時間。わたしがかろうじて生きていくためには年に1回はこういう時間がなければダメなのだ。
そこで問題になるのが「じゃあどこへ行くか」である。一昨年は名古屋、昨年は宮城、さて今年はどこへ行こう。
この流れで今年の行く先としてわたしが選択したのは「金沢」であった。
金沢と聞けば「お? 被災地のボランティアでも行くのか? 殊勝な心がけだよ」と言ってくださる方もいるかもしれない。だが違う。ボランティアとかは関係ない。そういう理由で金沢が選ばれたわけではない。ではなぜ金沢を選んだのか、その理由は単純だ。
夜行バスの料金が安かったから。
これ以上の理由はない。
それにわたしは車の免許を持たない民である。能登半島の先の方へたどり着く足はない。ボランティアなどしたくてもできやしないのだ。
もっと言及しておくと「食べて応援!!」だとかそういう魂胆もない。徹頭徹尾、ない。この「食べて応援」やそれに類するフレーズがそもそも大嫌いだ。「本当は別にこんなもんは欲しくもないし全然要らないんだけど、慈悲深い俺はお情けで石川県産の何かをたわむれに買ってやろうかな、これが慈悲というものなんだよ、はは」みたいな、ふざけ散らかした態度をそこに感じてしまうからだ。お前は応援しなくていい。お前は応援するな。お前はまったく自分という名の空間に耐えられなくなるからといって他所様をダシにしてまで己の刹那的な欲望を満たそうとメシばかり食いやがってメシ食うなメシ食うなメシ食うな、そんなことを思ってしまう。あのふざけた中産階級のガキどもをぶちのめす、それがわたしの決意だ。
それにわたしには他人を応援する余裕などない。むしろ、他人からの応援を切実に必要としているのは他の誰でもなくわたし自身なのだ。
金沢に行きたい、そう願った理由は先述の通り夜行バスの料金というのがもっとも大きな理由なのだが実はもう一つある。
わたしは「日本海」を見たことがないのだ。
正確に言えば、父親が秋田の出なので小さいころに秋田には行ったことがある。そして海にも連れていってもらった。わたしは幼いころから度を越したザコガキで運動神経も最低だったため、海で泳ぐなんてことはもちろんできなかった。親もわたしを海に入れようともしなかった。わたしのことだからどうせ海に入った瞬間即溺死するのでその判断は間違えていない。砂浜で何やら砂イジりをしたりヤドカリをつついたりしていたのは覚えているし、そんなこんなでいつの間にか夕方になっていて海に夕陽が沈んでいくのをぼんやり見てたこと、そんなのも覚えている。じゃあ十分日本海見たことあるじゃねえか、という話だがこれも如何せんわたしが小学生の頃のエピソードである。もう20年経っている。セピア色の思い出はそれはそれとして取って置くにしても、そろそろ認識をアップデートしたっていいのではないかと思う。わたしは最新版の日本海、いわば日本海2.0が見たいのだ。
(実は数年前に女性と旅行で日本海沿岸の都市に行ってはいる。そして海も見ている。だから今まで書いてきた内容は正確ではないのだが、この旅行及び同行した女性に関してわたしは記憶を消した。なかったことにした。だからわたしの頭の中の日本海の姿は二十年間更新されていない。繰り返しになるが、わたしはヒトが大嫌いだ。)
さて、金沢に行くのはいいとして、金沢に行って何をしよう? という問題は残る。金沢に行くと決めてわたしがはじめに検索したのは裁判所の場所だった。愚かなことである。あとは兼六園を徘徊したりドラクエウォークのスポットを巡ったり…というところであろうか。金沢に関する知識などまるでな い。「鈴木くんよう、金沢に行くんなら〇〇は訪れるべきだよ」という情報を隠し持っている方がいたらドシドシわたしに寄せていただけると嬉しい。
そしてなにより、金銭面の援助を乞いたいと願っています。貧乏なくせに旅行、生意気なことをしているという自覚はあります。でもしょうがないんです。少しの間だけでも知ってるヒトがいないところに失踪しないとマジで壊れてしまいそうなのです。そうじゃなかったら金沢くんだりまで行かねえ。ということでいつものお願いです。どうかどうか、わたしにお金を恵んでください。この物価高、いくら安いと行っても往復で8000円もかかります。8000円は痛すぎる。この出費もわたしを壊すには十分な破壊力を持っています。どうかどうかお助けください。恵んで応援キャンペーンのはじまりです。どうかサポートをお願いいたします。
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