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【読書メモ】 ディズニーリゾートの経済学

粟田 房穂 著

ディズニーの中身は、「テーマパーク、ホテル、複合型商業施設など多彩なエンターテインメント環境があふれる場所」というものである。

1. ビジネスモデル

○日本人の考え方に合わせる
•行楽や観光に出かけると、必ず飲食を楽しむ
•お土産を自分や家族だけではなく、親戚や近所の人にも配る

○品質の高さを維持する
•陳腐化との飽くなき戦いが集客産業の宿命であるため、新鮮さを保たなければならない
•キャストは5人ごとのチームで約2ヘクタールの地域を担当し、約15分で一周して絶え間なくゴミを拾う

○「魔法のレシピ」
ディズニーの「魔法のレシピ」で人々を「夢の王国」に誘い、そこに長時間滞在させる。そうすることで、閉鎖的な商圏で独占的なビジネスを展開して収益を独り占めすることが可能になる。


2. 巧みな夢の国の演出

○ディズニーランドのコンセプト「ファミリーエンターテイメント」
•人々に幸福と知識を与える
•親子が一緒に楽しめる
•年配の人たちは過ぎ去った日々の郷愁にふけり、若者は未来への挑戦に思いをはせる

○ディズニーキャストが教え込まれている3つのポリシー

•毎日が初演でなければならない
いつおいでになるゲストにも、何度おいでになったゲストにも、平等に新鮮な感動と共に楽しんでもらわなくてはならない。

•常に非日常世界ではなくてはならない
ゲストには現実を忘れて、夢の世界で遊んでいただかなければならない。パーク内からは日常的なものは排除しなければならない。

•永遠に成長し続けなければならない
常にイマジネーションの発揮による新たな魅力の追加が行われ、成長し続けていくものでなければならない。

○三次元のディズニー世界をつくる

•アトラクションは豊かなストーリー性に加えて、絶妙のタイミングで効果音を出すといったことからテーマパークは遊園地産業の延長線上ではなく映画産業の延長線上にある。

•パーク全体を見渡せないようにすることで、ゲストに意外性を常に持たせることができる。この意外感がゲストに高揚感をもたらす。

•入り口を1つにする理由は「映画を途中から見たのではストーリーがわからない」から

•どちらの方向を向いても、何かしらの興味や好奇心をそそられるものが見え、音が聞こえてくるつくり。ゲストは最初にシンデレラ城に引きつけられ、そこから別の好奇心を刺激する方へと散っていく流れをつくる。


3. 非日常空間を演出する

○「エイジング」
建物の壁面にところどころに雨水や鉄の錆によるしみがついていたり塗装がはげたりしている箇所がある。これはものをわざと古びた感じにすることでより本物に見えるという工夫。

○「強化遠近法」
•建物の大きさや道幅を遠くに見えるように、先に行くほど縮めるなどの工夫
•ワールドバザールを抜けたところでシンデレラ城を見ると、すごく遠く見えるが、シンデレラ城からワールドバザールを見ると近く感じる。

○外の世界を遮断
すぐれたエンターテイメントの質や水準を測る物差しの1つは、それがどれだけ日常性や実世界を想起させないかである。

•パーク内から外が見えないつくり
•入園料とアトラクション料金のセットにすることで、園内でおカネを意識させない。
•地下トンネルを使って物や食材をトラックに乗せて運搬。地下トンネルは物販施設と飲食店が集中している「ワールドバザール」「スペースマウンテン」「ウエスタンランド」の近くに1本ずつ。


4. キャスト

ディズニーでは従業員はキャストと呼ばれる。これはそれぞれが与えられた役割を演じる出演者という考え方。

○職場環境
ゲストを楽しませるには、まずキャストが率先して楽しく働く必要がある。そのためにキャストに誇りを持って仕事に打ち込める職場環境を提供することが、ディズニーのブランド力を高める前提条件なのである。

○「SCSE」
Safety(安全性)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show、Efficiency(効率性)の頭文字である。なかでもSafetyが重要。

○マニュアルとアドリブ
加賀見俊夫現会長が雑誌のインタビューで「社内のマニュアル比率をできるだけ70%にしていきたい」と語っている。マニュアル以外のところをどうするかはキャストの資質である。仕事に意欲的なキャストほどアドリブは多い。

○アメリカ流のサービス
アメリカは多民族国家で、教育水準がバラバラである。人種、言語、人格、教育水準を問わず、感じのいいサービスを提供するには、一定の基準を設けて従業員に身につけさせる必要がある。


5. 東京ディズニーシー

海のイメージには、冒険とロマンス、発見と楽しさがある。海の水には、潤いと安らぎがあり人の心を和ませる。なによりも、水は生命の根源でもある。

○ライブショー
ウォルトの考えたアトラクションは、機能だけから見れば従来の遊戯マシーン類にアニメーションのストーリーをつけ、それに合ったショーアップによって観客の気分を乗せ、臨場感あふれる雰囲気を楽しんでもらおうという手法である。
しかし、人間が生で演じるエンターテインメントとは情感の響きが違う。訴えるパワーだけでなく、見る者もそれぞれの感性で受け止め方が異なってくる。ライブショーがアトラクションの本命になりつつあるのは、時代の流れである。

○立体的な作り
TDSは坂や丘が多い立体的なデザインになっている。この設計によってパーク内を歩くとワクワク感が高まる。そして歩行者は視線が遮られるので、人ごみをあまり意識しないですむ。

○年齢層に合わせてカニバリゼーション(共食い現象)を回避
•パークの雰囲気をがらりと変えたこと
•アルコールが飲めるようにしたこと
•テーブルサービスを増やしたこと
•TDLにはないディズニーグッズを開発したこと


6. スポンサー

TDS、TDLともに「企業参加制度」というスポンサー導入制度がある。企業がパーク内の各アトラクションなどのスポンサーになり、広告宣伝や販売促進といった営業活動や広報活動などにテーマパークを媒体、素材として使用するユニークなシステムである。

○ディズニー側のメリット
その広告費をアトラクションに使える。

○企業側のメリット
•自社の広告宣伝媒体としてのディズニーの名称やマーク表示などの利用、およびパークのシーンなどをコマーシャル、パンフレットに活用することが認められる。
•チケットや商品を使用した販売促進活動もおこなうことができる。
•ディズニーのスポンサーであることから企業イメージが高まる。

○拠出額
拠出するスポンサー費用は各社一律ではなく、施設によって異なるようだ。費用は、参加料と年会費の2本立て。支払いは半年ごとないしは1年ごとで、基本は 10 年契約で最長は 20 年になっている。契約金額は公表されていないが、 15 億円から 30 億円といったところだろう。

○駅の広告スペース
ここにある広告は施設やアトラクションのスポンサーがほとんど。これはオリエンタルランドが広告スペースをすべて買い取ることで実現した。


7. ホテル事業

「遊んで、泊まって、また遊ぶ」
ディズニーにあるホテルのうたい文句。現実の日常空間に引き戻さないで、長い時間、楽しく過ごしてもらおうという狙い。

○近隣のホテルとの連携
TDRを訪れるゲストの3割程度が宿泊客と見込まれ、年間の宿泊客は600万人を超す。しかし、5つの公認ホテルの年間収容能力は約300万人、直営3ホテルの約150万人が加わってもまだ足りない。その対応策として、TDSの開業を機に都市ホテルと提携して入園客の宿泊の便宜を図るプログラム「グッドネイバーホテル」制度を展開している。もともとは周辺のホテルが対象だったが、その後、「パートナーホテル」制度を加えて都内の山手線内部や新宿のホテルまで対象を広げた。


8. イクスピアリ

○イクスピアリという名前
イクスピアリは、エクスピリアンス(経験)とフェアリ(妖精)の造語。「物語とエンターテインメントにあふれる街」がキャッチコピーだ。

○作った理由
事業規模が一気に倍に拡大するのを機に、ディズニー社との提携で成り立っている事業の比重を小さくして自主的な事業展開を考えた。


9. 日本のリゾートブーム

○リゾートとレジャー
リゾートは仕事や日常生活とはまったく違う、もう1つの生活を楽しむこと。そのこと自身が目的である。
レジャーは仕事のための休息・気晴らしであれ、健康のためのスポーツであれ、「何々のため」というニュアンスがある。

○ブームが起きた理由
日本が経済大国への道を歩む過程で、日本の大幅な貿易黒字が問題になった。「働き中毒」への批判からリゾート開発への関心が高まった。

○現実には構想段階で頓挫
•バブル経済崩壊による不況であった
•特徴を打ち出せなかった
•自然との関わりで巨大開発が壁にぶつかった
•地域活性化を目的にした第3セクターによる開発運営が行き詰まった

○ブームのその後
•リゾート開発は、大手商社や鉄道会社などの開発業者とゼネコンと不動産業者がかかわる土地投機ビジネスだった。バブルがはじけると多くのリゾートは瓦礫と化してしまい、開発にかかわった地方自治体の多くは「負の遺産」を抱えこんだ。
•地方のテーマパークは、バブル景気で続出した長期滞在型の大型リゾート計画がつぶれたあとに手軽な地域振興策として始められた。始まりは「軽い夢」だったが、残された負債はずっしりと重い。
テーマをせまい範囲に限定するとイメージが予測しやすいため、わざわざ行こうという気にならない。その一例が、特定の国をテーマに街並みの再現や文化歴史を紹介する「外国村」だ。

○ディズニーへの意識
•何かと内容や立地からディズニーと比較されるので、「テーマパークの王様」より高くはできない。その料金が上限になるので、巨額の投資資金の回収を見込んだ価格設定ができなかった。
収支計画が狂ってくれば、適切な戦略が立てられない。経営の黒字基調が定着しないため思い切った追加投資ができない。これを打破しようと経費節減に走り、サービス低下を招き、さらなる入場者の減少という「お定まりの悪循環」に陥った。


10. リピーターを増やす

○ゲストの「不満」をつくりだす
ゲストはディズニーランドで遊んだことに満足するが、心残りを抱えて帰宅する。不満なのだが、かならずしも不快なものではない。パークに満足しているからこそ、回りきれないとか帰らなければならないという「現実」に対して不満を抱く。  

1日園内を回って遊んで、それでも全体の3分の1弱は体験できずに帰る広さがテーマパークとしていちばんいい規模なんです。体験した3分の2が期待どおりのものだったら、残りの3分の1を見に、もう1度いってみようと思うでしょう。でも、大きすぎて半分しか体験できなかったら、こんなことなら料金を返してほしいなどという不満感が募って、2度といきたくないと思うものですよ(加賀見俊夫『海を超える想像力』)。

○第2印象
足を踏み入れたときに抱く「第1印象」はほかの追随を許さないが、それに加えてリピーターをつくるためには別れ際にゲストに与える「第2印象」が重要になってくる。
出口付近は思い出の詰まったお土産を売るショップが並び、キャストやキャラクターはにこやかにゲストを送り出す。ここでもまたキャスト・建物・風景が三位一体で「第2印象」を強烈に与える。


11. 感動や興奮と消費の結びつき

○遊、食、ショッピングの3つがセットになって初めて満足度が高まる。
パークには、ゲストに楽しい「経験」をしてもらうことで消費意欲を高める仕掛けが巧みに施されている。閉鎖空間に囲い込んだ消費者を夢心地にさせて、必要を超えて過剰な消費を勧める。

○売ることが目的ではないショップ
並べられている商品も店の景観もショーの一部である。あくまでゲストにショーを楽しんでもらうために運営している。

○ディズニーブランド
ディズニーブランドが約束するのは、低級品でないこと、安心、楽しさ、感動、ほかの人との違いを強調できること。
実在の場で〝実物〟と出会えることで、キャラクターへの親密度が増し、ブランド力は確固たるものになる。


12. 進化の所以

○土地の取得
埋め立て工事費1500億円はオリエンタルランド社が負担、造成したのちに1平方メートル約5000円で千葉県から分譲を受けた。千葉県は1円もかけずに土地を造成、払い下げる形で利益を手にした。このやり方は、地価高騰のおかげで同社に大きなメリットをもたらした。

○アトラクションへの投資
「スプラッシュ・マウンテン」(1992年オープン、クリッターカントリー全体を含む)が285億円、「トゥーンタウン」(1996年、112億円)、「プーさんのハニーハント」(2000年、100億円)。

○遅れの効果
もともと、TDSは開園5周年事業として推進されていた。それが、大幅に遅れた。ただその時期に金利の低下、デフレによる物価の下落も追い風となり、建設費が節約できた。

ディズニー社のマイケル・アイズナー元CEOは「ディズニー社では、創造的活動には多少の遅れを許容している。遅れには二重の効果がある」という。第1にアイデアを温める時間、つまりアイデアをじっくり煮詰め、編集したり、改良したりする時間ができる。第2に、すぐに行動に移さないことで事業を取り巻く状況を正しく理解できるようになる。

○人件費
テーマパークは設備資金にカネがかかるという点で資本集約的企業であるが、人手がかかるという点では「労働集約的企業」でもある。
規模を拡大した際、業務の効率化などで現在の正社員2500人を増やさず、準社員を8500人増やした。
こうして、人件費コストの指標である「売上高人件費率」はかつては準社員を含めて 22 ~ 23%程度だったが、TDRになって 20%以下にとどまっている。

○2パークで使える施設を共有
飲食施設の料理を一括処理するセントラルキッチンや物流センターを、TDLとTDSのほぼ中間の位置にあるオリエンタルランド社のなかに移設した。
そのほかにも駐車場、コスチュームの保管、着替えをする場所であるワードローブビル、消防や警備、メインテーマ機能、研修、広告宣伝、営業活動など…


13. ディズニーの課題

○大津波を伴う災害
東日本大震災の時は見事な対応を見せたことにより、大きな賞賛を浴びた。しかしそれ以上の災害が起こるリスクも考えられる。

○待ち時間
待ち時間が長いほど楽しみは大きくなるが、限度を超えてしまうと不愉快になる。

○携帯の使用
ディズニーは非日常を味わうことができる空間である。そのためにいろんな工夫がされているが、厄介なのが携帯電話である。携帯電話がなってしまうとその人だけではなく、周りの人も現実に引き戻されてしまう。


14. 経験経済の時代

○現代社会
成熟社会では消費者は自分なりの価値尺度を商品購入の判断基準にする。商品やサービスに「経験」という価値を組み込むことが、企業間競争を勝ち抜くコンセプトになる。

○経験
厳格な管理基準による「品質」、ゲストの出費に見合うだけの「価値」、作品としてのパークの「ユニークさ」、キャストの明るい笑顔による「親しみ」、ウォルト・ディズニーのフィロソフィーである「ファミリーエンターテインメント」である。この5つの要素が融合することで、ディズニーテーマパークの「経験」というコンセプトが成立する。

○ディズニーという存在
清く正しく美しいパークは、ひたすら清潔で人畜無害の無菌の世界である。それゆえ、元祖ディズニーのご託宣通り、「幸福」と「家族」のシンボルとして日本社会に根づいてきた。
開園から 30 年、東京湾の埋め立て地に誕生したディズニーランドは東京近郊のアクセスが便利な巨大な娯楽・ショッピング複合施設というだけでなく、日本人にとって身近で日常的な「心のふるさと」になっている。
















































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