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意外とできない強制離婚 ~裁判と労力と時間と費用との折り合い--連載06

(1)そもそも強制的に離婚を成立させられるのか?


たとえ法定されたような離婚原因があっても、日本の裁判制度からすれば、家庭問題に関しては幾つかの例外を除き、必ず調停を経なければ裁判にすることはできません(調停前置主義)。

ですから、まずは、夫婦での話し合い、それができなければ調停、裁判というステップを踏まざるを得ない以上、どういった理由があったとしても、すぐに裁判離婚というわけにはいかないわけです。なお、離婚などの進め方については、夫婦問題の進め方、に記載していますので、そちらも参照してください。

なお、どんなケースでも、相手方が離婚を拒否すれば、裁判まで行わなければ離婚を強制できません。これが意味していることは、端的にいって離婚請求をする側は不利とは言いませんが、少なくとも、労力、費用等の点については、それなりに負担は強いられるとは言えるかもしれません。もちろん、お金も労力と時間が掛かってでも離婚をしたい、しなければ自分が壊れてしまうという方もいますので、そこは負担を掛けてでも、得られる利益の方が多いという方もいるとは思います。

(2)裁判での離婚には何が必要になってくるのか?

これについては、過去のnoteの記事(裁判で離婚が認められる5つのポイント--連載04)も参考いただけるとありがたいですが、いずれにせよ、裁判でジャッジをしてもらうということは、何も事情をしらない第三者(裁判官)に結論を出してもらうわけですから(基本的には、判決よりも和解での結論の方が相当に多いかとは思いますが)、その第三者としては、客観的な証拠無くして、聞いた話しの印象だけで、「Aさんの勝ち」とは言えません。 

よって、仮に浮気があっても、ラブホテルに入る写真などの決定的な証拠、暴力であれば暴力を振るわれた写真、医師の診断書、ボイスレコーダー等での暴言の様子(文字起こしは必要です)等がなければ、離婚が認められないばかりか、慰謝料も認められないということになりかねません(そこは、弁護士さんが見通しを話してくださるはずです)。

なお、決定的な証拠がなくても数々の細かい証拠から“婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条5号)”にあたるということで、5号(婚姻を継続し難い重大な事由)での離婚が認められることはありますが、いずれにしても、離婚をするためには証拠が重要となるわけです。そうしたものが無い場合には、必要に応じた別居により、夫婦関係の破綻を主張していくことになります。ちなみにではありますが、家庭内別居も別居に該当しますが、一緒に住んでいる以上は、それを証明することはなかなか難しいでしょうから、家計を別けて、生計を共にしていない事や、普段から関わりなく生活をしている事の証明(日記等)等、そうした積み上げが必要です。 

なお、相手方配偶者に離婚の責任があれば、「法律は私の味方をしてくれる」と思われるでしょうが、それは少し違い、「法律は、『決定的な証拠を持っている』私の味方をしてくれる」というのが正しい話になります。だからこそ、感情的になるのをこらえて、証拠のことまで考えて、戦略的に動く必要性を考えていかなければなりません。 

(3)補足:浮気が発覚した場合に、修復したい方はすぐに慰謝料請求すべきか?

 
浮気の場合には、それが発覚した途端に、相手方配偶者を問い詰めたり、相手の女性、男性にコンタクトをとるなどしてしまいがちですが、急にそういった態度に出てしまえば、離婚をしなくてもよいような場合でも、夫婦関係を悪化させてしまい、修復不可能となることもあります。

さらに、警戒されて証拠を取り難くなってしまいますし、いざ離婚の話し合いになっても、関係性の悪化に火がついているような状況では、なかなか話し合いがうまくゆきません。ここはぐっとこらえて、離婚をする、しないに関わらず、証拠の確保をしてから動くことの検討も必要になります(必ずしも証拠を取得しなくてもよい場合もありますが、そこは専門家などにも相談をされるとよいかと思います)。

ただし、色々なケースを見てきましたが、浮気を追求して、さらに異性に対して慰謝料請求をすることで、相手方配偶者が戻ってくることもあります。その戻ってくる時の心境は様々ですので、一概に、これが理由です!とお答えすることはできません。中には、「そんなに自分の事を思ってくれていたのか・・」というケースもあれば、「今後、何をされるか分からない」という怖さから戻ってくることもあります。証拠を取得して、突きつけることで、すぐには無理でも夫婦カウンセリングなどを経て修復に至ることもあります。

ですが、浮気の理由も様々ですから、普段から夫婦関係が望ましくなく、配偶者からエネルギーを貰いたい、全く承認をしてくれなくて心のエネルギーが空っぽになっているところに、優しい言葉を掛けてもらったことで、エネルギーが増えてきて、結果としてお花畑になってしまって入れ込んでしまったなど、その理由は様々です。 

そうした場合には、浮気相手はエネルギー供給源ですので、それを奪われたとばかりに、責任を棚上げしてこちらを攻撃してくることもあります。ですので、浮気相手への法的なアプローチをすべきかというのは、状況に合わせて検討する必要があります。 

(4)離婚と修復、両方のために証拠をとっておいた方がよいのか?

話を戻しますと、私が証拠の話をすると「今は、夫/妻の浮気を知って、精神的に辛く、証拠どころではないのです」と言われる方もおられます。精神的な辛さだけではなく、興信所は費用も掛かりますから、そもそも証拠を取るためにお金を掛けることができない場合もあるかと思います。

ですが、もし離婚になってしまったとして、証拠がないがゆえに話し合いもこじれ、慰謝料もなく、しかも、離婚後、相手方配偶者がのうのうと浮気相手と仲良くしているというのは納得がゆきません。

今苦しくとも、離婚前、離婚後に経済的に追い詰められないように、また、少しでも納得して離婚をされて前向きに進めるようになるために、証拠が必要になってくることもあります。絶対ではありませんが。なお、当職が避けたいのは、確かに浮気があるはずなのに、証拠が無いのを良いことに、全ての原因はこちらにあるかのように振る舞い、そして離婚を押し通され、さらに悪人にされたまま、お金の問題も解決できずに最後まで追い込まれて、結果、離婚後に相談に来られるケースもあるのは事実です。

なお、また別途お話をしますが、修復のための証拠をとっておいた方がよい場合もあります。ただそれは、慰謝料請求をするためという目的ではありません。あくまで修復のための話です。修復するのに何故証拠が必要なのか・・と思われますよね。ひとまず、ここについては、また別途書かせていただきますね。 

話を戻しますと、もちろん、割り切って、「そんな妻/夫ならば、何もいらないので、早急に離婚をして、新たな人生を」という選択肢もあると思います。しかし、浮気をし、暴力まで振るいつつも、離婚を拒否してくるケースは意外と多いものです。その状況で、何も証拠がなければ、悪い事をしたわけでもないのに、“離婚をお願いする立場”になってしまいかねません。実際、自分が被害を受けたのに、慰謝料を貰うどころか、逆に解決金を支払って離婚をしてもらった、というケースさへあります。 

相手が納得しさえすれば、どのような理由でも離婚になりますが、相手が拒んだ場合には、如何様な原因があったとしても、なかなか離婚というのは難しく、また歯がゆいものでもあるという話しでした。

なお、今までのnoteでの連載だけでもお分かりになるかと思いますが、夫婦問題の進め方や対応には、多くの枝葉が存在します。その分かれ道を知らずしては、場当たり的な対応になってしまいます。その夫婦問題から発生する進め方の枝葉を事前に理解しておくためには、事前にプロに相談しておいてください。

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