新人賞の授賞式に参加するバイト

僕が働いていた出版社は文芸賞を毎年開催している。文芸賞を開催するということは授賞式も開催するということである。授賞式は会社内のホール的な場所でおこなわれる。社内の人間なら誰でも見に行くことができる。

その日は3賞の授賞式があって、左からベテラン、中堅、新人、と言う風に並んでいた。印象に残っているのはその新人だ。

新人の歳は30前後で、大学の軽音サークルにいそうな好青年だった。ステージの上の彼を見た時「こいつが…」と思った。僕は日ごろからその新人作家の単行本を梱包したり、編集者の家に郵送したり、郵送分の在庫を倉庫から取り寄せたりしていたのだ。リリースという発売前に配るチラシにはその作家の顔が載っていて、なんとなく気に食わない顔だと感じていた。だからこそこの授賞式は絶対に見てやろうと思っていた。一体実物はどんなだろう、と。

その作家のスピーチは想像の範疇を超えなかった。この本が受賞したのは驚きだとか、この本は好き嫌いが分かれるだろうとか、協力してくれた編集者やデザイナーには感謝しているとか、まあそういう感じだ。外見も本当に変わったところが無く、小説を書きたくなるような顔をしていないのが逆に印象的だった。その作家がまだ若いというのもあるが、それまで会ってきた作家には何かしら尖ったところがあった。僕はその作家のデビュー作をちょっとだけ読んでみたのだが、まさに最近の若者が思いつきそうな内容、文体といったところだった。いつでも新人はなめてかかられるのだ。

スピーチの後に花束が贈呈された。花束を渡すのは新入社員の仕事で、その日はみんなスーツを着ていた。僕が気に食わなかったのは(僕は気に食わないことが多い)、ただ花束を渡すだけの若手新入社員が誇らしげだったところである。まるでその瞬間を飲み会で自慢するために入社したかのような雰囲気じゃないか。新卒の女性社員はみんな美しいので、その新人作家もテンションが上がるのを無理に抑えているように見えた。その光景が僕には見にくかった。何というか、現代の若者の底の浅さのようなものをそこに見たような気がしたのだ。


と、フリーターの僕は思った。




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