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編集長にCDを借りる

僕が働いている出版社の従業員は10人。編集者(記者)が4人、デザイナーが1人、営業が1人、経理など事務係が3人。小人数なので、編集長との距離が近い。大手の出版社の場合、編集長が記事を書くことはほとんどないが、うちでは平社員と同じか、それ以上に記事を書いている。
 校了日(原稿の締め切り日)には「今月もおつかれ」という意味も込めて、記事のページ数のチェックをしながら編集長とデザイナーと営業と僕の4人で、雑談する。
 7月号の校了日である6/18、全ページのノンブル合わせが終わった後、たまたまラジオの話になった。
「●●くん(僕)はラジオとか聴くん?」
「聴きます」
「何聴くん?」
「山下達郎のサンデー・ソング・ブック」
そこで初めて、僕は山下達郎が好きだと公言した。
「ちなみに、俺ヤマタツのアルバムは全部持ってるで」
「え、じゃあ貸してください」
「ええで」
僕は以前から、山下達郎のアルバムを買うか迷っていた。山下達郎はサブスクにないからだ。僕は音楽をアップル・ミュージックで聴くため、そこにないともうYouTubeしか聴く手段がない。あとはグーグルで「山下達郎 無料」などど調べて、謎のサイトで聴くか。そんな時に編集長がアルバム持っているというから、反射的に「貸してください」と言ったのだった。ちなみにその日は定時をすぎても、40分くらい音楽について話していた。
 翌日、早速山下達郎のアルバムを持ってきてくれた。CD5枚。「アルチザン」「僕の中の少年」「パーティーズ」「コジー」「オーパス」。
その翌日、僕はテニスコートまで運転しながら、「アルチザン」を聴いた。
アルチザンはバラードが中心のアルバム。3曲目の「ターナーの汽罐車」がかかった時、このアルバムはいいぞ!と思った。夜8時のドライブで聴くにはベストな音楽と思えた。この曲だけでなく、「片想い」や「エンドレスゲーム」など、しっとりとして、夜にぴったりの曲が連発でかかって心躍った。

 今の会社に入って2年半が経つが、このように編集長と共通の趣味について話し、ましてやCDを借りることなどはなかった。ちょっと昔の音楽や映画、小説の趣味を持つことがメリットに感じた最初の瞬間であった。




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