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グッバイ、コロンバス

なんで今まで読まなかったんだろうという本。僕はてっきり「ライ麦」を超えるか同等の青春小説はもうないんじゃないかと思ってた。だからフィリップ・ロスとの出会いは大きかった。まだロスの本はこれしか読んでいない。スピルバーグの映画をもう一度記憶を消して見れるようなものだ。


フィリップ・ロスの名前を知ったのは正直いつか覚えていない。多分ネットで「村上春樹 影響を受けた本」と検索した時か、エッセイで触れていたかのどっちかだろう。読む前にフィリップ・ロスで調べると村上春樹と一緒に高橋源一郎の名前も出てきた。そこで今読んでいる別の長編を中断して「絶対これ読もう」と図書館に行ったのだ(地元の書店には売っていなかった)。


最初の1ページで僕が好きな作家だとわかった。こういう感じは久しぶりだった。1ページ目で何人かの作家を思い出した。まずはサリンジャー。次にカポーティ。フィッツジェラルド。庄司薫みたいな文章もたまにあった(これはこっちがパクリなのだが)。

ただ、上記3人よりも親密に感じた。多分これがロスにとってのデビュー作であることは関係していると思う。26歳の本好きの青年がこういう小説を書きたくなるのは自然だし、とにかく書いてやれという若さが伝わってくる。まあ途中からデビュー作とは思えないくらい堂々としてることに気づくのだが。


最初は句読点の多さとややハズし気味の比喩が気になったが、読んでいくうちに「ああ、これはサリンジャーと変わらんな」と思ってきた。最初はやはりなめてかかってしまう。が、句読点で長々と繋がった文章に強引に読まされる感覚が気持ちよくなったし、比喩も選び抜かれた1単語だと分かり、すっと入ってくるようになった。


デビュー作にしては登場人物が多めだが、それぞれのキャラの説明が短いながらも想像しやすいのは武器だと思った。例えば図書館に遊びにくる黒人の少年。あとは電球屋を営むレオ。それから中盤に出てきた花嫁のハリエットも。ジャブが上手い作家だなあ、と感心。


で、最後の喧嘩別れだが、ここを理解できていないのは僕だけなんだろうか。もっともこの段階ではこの本を「面白いし、好き」な本とすでに決めていたので、ラストシーンで多少モヤモヤが残っても十分黒字である。

何がわからなかったのか?単純に「避妊具が母親に見つかったことの何がいけないんだ?」ということ。重要なシーンだったので読み終わってすぐに結末を検索したが、誰もここには触れていなかった。「ライ麦」ほどの知名度がないのでブログの数も少ないのだ。

ブレンダは女性大生で、ニールは社会人。妊娠したのなら話は別だが、まだ避妊具が見つかっただけなのだし、母親が激怒してしかもニールも「なんで肌身離さず持っていないんだ!」と怒る理由がわからない。ブレンダが中学生とかならわかるんだけど、多少歳下くらいだろうし(作中に年齢は書いていなかった)、そういうこともあるだろうと僕は思ってしまった。


そこを差し引いても十分心に残る小説だった。

タイプの作家を見つけるのは簡単じゃない。僕は青春小説が好きだけど、カポーティはそこまでハマらなかった。ちょっとした単語の選び方で知らないうちに作家を「好き」「ちょっと好き」「普通」「あんまり」のように分けている。カポーティは題材自体は好きだが、文体のインテリ感がピンとこないというのがある。しかしロスは、はっきり言って90点はあると思う。とにかく、まだ次のロスを読むのが楽しみである。

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