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五木寛之「さらばモスクワ愚連隊」

五木寛之を読んだことはなかった。どうやってこの本を見つけたかと言うと、「ジャズ 小説」みたいなことを調べて出てきたのがこの本だった。ジャズについての小説が読みたかったのだ。

この本は書店では売っていない。地元の図書館の書庫にはあった。もちろん書庫だ。

これは五木寛之のデビュー作。そしてジャズについての本となると、どうしても「風の歌を聴け」と比べずにはいられない。この単行本が発売されたのが1967年となっているので、村上春樹が大学生の頃だ。当時の村上春樹はこの本に注目しただろうか?

読んでの率直な感想。やはりこの本も、「風の歌を聴け」を超えなかった。いや、「村上春樹はやっぱり特別だなあ」と思わせてくれた、と言っておこう。

「モスクワ…」は、1人のジャズ好きの日本人がロシアで即興のジャズをするという話。このあらすじを読んだ時、「こんな筋のない内容を、新人がどうやって書いたんだ?」と気になった。

一番の違いは、「余計なことを言うか言わないか」である。「モスクワ…」は情景と会話がバランスよく交互に書かれている。最近の芥川賞と比べるとかなり良い。そう、これはなんで「小説現代」の方なんだろう?もしこの小説が次の芥川賞に応募されたら、まず候補作に残ることは間違いない。まあいい。バランスはいいのだが、「おふざけ」が足りない。センスは感じるけれど、無駄撃ちはしないという守りの姿勢がうかがえる。
「風の歌を聴け」は、村上春樹が「俺は誰よりもキザになることで有名になる!」という気持ちで書いたものだ。両者、デビューした歳は30歳前後と同時期だが、若さをより全面的に押し出すことに成功したのは村上春樹だ。

とは言ったが、僕は五木寛之という人に好感を持った。この「モスクワ」は、言ってしまえば作家志望が一度は思いつくような内容である。「とりあえずなんか書きたい」の「なんか」が、五木寛之でいうジャズだった。作中にはジャズのアーティストや曲名がよく出てくる。ジャズを知らない人にはわからない。僕もほとんどわからなかった。しかしこの作家がジャズが好きで、それ以外に書きたいことがない、またこれが一番書きやすい、というのがよく伝わってきた。新人にはそれさえあれば十分である。

もう1つ。やはりジャズを好む人が書く文章にはリズムがある、ということ。これは良い確認となった。これでジャズを聴きながら本を読んだり、記事を書いたりすることに自信を持って取り組める。


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