高校時代の友達だった人の話

女友達だったんですけどね。男女間の友情はあると思ってて、その人とは本当にそんな関係だったなと思います。気が合った、ってことなんだろうけど。

彼は唐突に話しだした。昼下がりのファミレスに入った俺たちは、ただ、暑いから涼みたいというだけの理由でその場所を選んだ。

もともと手持ち無沙汰だったのだ。暑いし、ドリンクバーで茶を濁す?茶でもしばく?みたいな、中身のない会話をしながら、ファミレスの入り口を押した。「引」って書いてあるのに、そういうところがガサツなんだよ。そんなことを感じながら、なんとなく、タバコが吸いたくなったのだが、今更駅の近くにある喫煙所まで戻るのが億劫で、俺はタバコを我慢した。そこに往復で移動する時に浴びるであろう陽射しと、背中や脇の下に吹き出している汗が醸し出す不快感のコンビは、見事にタバコへの欲求に打ち勝ったのだ。

まぁでも、友情だと思ってたんですけどね、俺、大学に入って半年くらい経った頃にバイクの免許を取って、250ccのバイクを買ったんですよ。で、買ったんだよ、ってその人にLINEして、そしたら、そいつが「遊びに来なよー」なんて言うから、あぁなんか面白そうだなと思って、行くことにしたんです。

話にオチがあるかどうか、そんなことはあまり関係なかった。まず、身体中から吹き出している汗が引くこと、そして少しでも日が陰ってくる時間帯になること、その二つを手に入れることができるだけで、俺はとりあえず良かった。その、女友達との行く末など、俺にとってはどうでも良かった。

それが真冬に近い時期だったんですよ確か。12月とか。俺、その時Gジャンくらいしか持ってなくて、それ着て高速に乗って120kmとか出したんですけどめっちゃ寒くて、「あ、これ死ぬな」なんて思いながら、なんとか1時間半くらいかけてその人の家までたどり着いたんです。
そしたらそいつが、温かい味噌汁を作ってくれてて。主婦か!ってツッコミを入れたりして、嬉しさをなんとかして紛らわせようとしたんですよ、俺。若かったし。そういうキャラじゃなかったし。
そしたらその味噌汁がめっちゃ美味くて。多分、寒かったから、余計に美味く感じたんでしょうね。

彼の語るストーリーに脂が乗ってきたように感じる。そろそろクライマックスだろうか。依然として興味は湧いてこなかった。次、ドリンクバー、何を飲もうかな、のほうが興味の度合いが高い。

コタツに入りながらそいつの作った味噌汁と、野菜炒めと、白いご飯を食べたらなんだか泣きたくなっちゃって。よっぽど寒くて、地獄みたいだったから。とりあえず泣くのは我慢して、で、腹がいっぱいになったせいか眠くなっちゃったんですよ。まだ8時とかだったのに。ごめん、ちょっと寝るわ、って言ったらベッドで寝なよって言ってくれて。

店内は空いていた。俺たちと、一人でビールを飲む婆さんの、二組だけ。店員はほとんど顔を出さなかった。これならタバコを吸ってもバレないんじゃないかなんて考えていた俺は、目の前にいた彼を見て驚いた。

彼は泣いていた。

俺、そいつのこと、今考えると好きだったんだな、そいつみたいなやつと一緒にいられれば、きっと柔らかい幸せが手に入ったんだな、って今になって思うんすよね。
多分、気が合うだけで、あまり刺激が感じられなくて、エロくもなかったからそいつの家に泊まってベッドで寝たけどセックスするとかそういうの、考えなかったし。

お前、まだ、忘れらんねえ、って思うんなら、もう一回挑戦してみたら?

夏の昼下がり、大の男が俺の目を憚らずに泣くという現実。そしてその男は数年経った今でも未練を引きずっているという現実。彼とは薄っぺらい関係だったが、今まで見たことのない一面を感じた。

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