夜の静脈

眠れない僕は家を出る

寝静まった街の中でも
耳を澄ませば音が聞こえる

風が揺らす木々や
唐突に弾ける電線の群れ

歩くたびに触れ合う衣擦れと
思い出したように現れる車のエンジン

それはまるで、耳の奥で鳴る静脈のよう
生きている限り、続いていく

ふと、空を見上げる
煌々と灯る街灯に、小さな蝶がはためいている
光の周りを行ったり来たり
集まりすぎてノイズのようだ

近付きたくないと思うのに
視線をただ奪われる

バチバチ、バチッ
灰になって消えてしまった
跡形もなく、あっけなく
熱すぎる熱に身を投じる理由を
聞くことも出来ないまま

それとも、光ほどは完璧になれない自分に
嫌気が差したのだろうか
気持ちは分かる、程々だけど

夜は僕を冷たくする
眠れない理由は山ほどあって
置きたい理由は別にない

夜風は僕を震わせる
行きたい場所は特にないし
夜が明けるまでは居られない

踵を返し、引き返す
足もちょっと疲れたみたいだ

今日はもう家に帰ろう
夜はいつも長すぎる

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